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27話 – 外交特権(3)

  • 2016.03.18
  • 更新日:2018.10.08
  • RP日記

 


ドラゴンブリッジの宿屋フォー・シールズに到着したのは真夜中だった。
宿へ入り、ルーシスを探す。
「おい、ここだ」


「遅かったじゃないか。もう寝てしまおうかと思ったぞ」
「すまんな、ルーシス。雪道で馬を走らせられなくて」
「分かっている、冗談だ。メル、任務の成功おめでとう」


「ルーシス、説明して」
「うん? 何をだ」
「ロードを洞窟の外に待機させたりして…あなたは大使館の構造を知っていたってことよね。それと、私の勘違いかもしれないけど…ドラゴンを見たというサルモールがいたらしいわ。でも本当にドラゴンが現れたのならもっと騒ぎが大きくなったはず。何をしたの?」
「鋭いな。お前が活動しやすいように少し細工をした」
「…どういうこと?」
「晩餐会の日は外の警備を厳重にする分、館内の警備が手薄になることを知っていた。そこで中庭の警備をどうするか考えた。知り合いに幻惑術に精通してる者がいてな、強力な巻物を作ってもらったのだ」
「それをサルモールの一人に使い、ドラゴンの幻を見せて混乱させたってわけね…」
「その通り。大使館の壁を登るのに多少苦労したがな」
「そんな計画があるのならはじめから言ってくれれば…」
「言ったらつまらないだろう? それに、お前が甘えてしまう」
「そんな…。大使館に詳しいあなたがこの任務を受けたほうが良かったのでは? 私は何のために…」
「お前の成長のためだ。まあ、私では顔を知られていて晩餐会には出られないし、どうにかできたのは中庭の警備兵くらいだからな。それに私が機密書類を探して館内をウロウロするよりも、マルボーンから情報を得たお前のほうが書類探しは容易だろう?」
「……」
「そう怒るな。自分一人の働きではなかった事が悔しいのか?」
「…違うわ。言ってくれなかったことに怒っているのよ。助けてもらったことには感謝しています、どうもありがとう」
まるで軽くひと仕事終えたように涼しい顔をしているルーシスが少し腹立たしくて、早々にベッドで眠ることにした。

次の朝、朝食を済ませ早いうちにリバーウッドに向かうことに話が決まった。
「メル、まだ怒っているか?」
「いいえ。一晩眠ったら収まりました」
「そうか? 実はお前に黙っていたのだが…」
「な…なに? 今度は…」


「どうだ、綺麗な白馬だろう? カトラ農場に一頭いたのを買ったのだ」
「はあ…」
「おや? お気に召さないようだな。黒いほうが良かったか」
「いえ、あの…。そういうわけじゃなくて…」


二頭に囲まれ、ため息をつく。
「私はどうすればいいの…」
「お前も馬に乗れるようにしなければな。だがまあ、とりあえず今回は好きなほうに乗れ」
「えっ…」
「お前一人を走らせるわけにもいかないだろう? そんな格好をしていては」
「けど、私を乗せては思うように走れないでしょう?」


「昨夜と違って明るいし雪道でもない、少なくとも歩くよりは早いさ。それに、多少は慣れたろう?」
ロードが言う。
「それは、そうですけど…」
「…よし。ではロードの馬に乗せて貰え。ロード、頼んだぞ」
「ああ、分かった」
ロードの差し出す手を、遠慮がちに掴んだ。

嫌なわけではない、ただ…。
明るい場所で、彼に抱きつくかたちで馬に乗ることを、恥ずかしく思ってしまった。
「ほう、これは…。さながら騎士と姫だな」
ルーシスに言われ、余計に顔が熱くなるのを感じた。

ロリクステッドで少し休憩した後、イリナルタ湖を目指していた。
その途中、ドラゴンの声を聞く。


「あれは…アルドゥイン!」
馬から下り、近づいて様子を見る。


「ヴォルジョツナーク! ジール グロ ドヴァー ウルセ!」
「スレン ティード ヴォ!」
アルドゥインはドラゴンを復活させると、また彼方へ飛んでいった。

「ロード、お前は片翼の根元を狙え! 私は頭を引き付ける!」
「任せてくれ!」
ロードが翼の根元を両手剣で数回斬りつけると、翼はだらんと地についた。
「よくやった! もう飛べないだろう!」
ルーシスは何度も喉元を攻撃している。

「ヨル トール シュル!」
ヴォルジョツナークは炎を吐く。咄嗟にシャウトでブレスを中断させたが、ルーシスが炎を浴びてしまった。
「ルーシス!」
膝をついたルーシスに回復呪文を唱える。
「こ、この程度。平気だ…くそっ!」


「離れてろ! 止めを刺す!」
ロードがドラゴンの喉元に剣を突き刺し、力任せに斬り込んだ。
剣を抜くと、ヴォルジョツナークは倒れた。

やがてその身体から放出される光が私の身体に流れ込み、魂を吸収するとドラゴンは骨だけの姿になった。
「…メル、無事か?」
「ええ。あなたこそ、ブレスを直接受けてしまって大丈夫だった? ごめんなさい、もっと早くシャウトを使うべきだったわ…」
「回復が早かったからな、問題ない。しかし…ロードと共にドラゴンを相手にするのは初めてだったな。流石というべきか…。『ぶった切る』という表現が近いな、お前の剣は」
「それ、褒めてるのか?」
「勿論だとも。大きな体躯を存分に生かせてると思うぞ」
「それは、どうも…。とにかく、近くに宿屋がある。雨も降ってるからそこへ急ごう」
「そうだな。…メルもずぶ濡れだ」
ルーシスに言われて初めて、自分のドレスが雨に濡れて身体にぴったりとまとわりついていることに気付いた。
「……っ。は、早く行きましょう。宿屋で服を乾かさないと…」
慌てて、二人よりも先に小走りに宿へ向かった。


「厩に馬を連れて行くから、先に行ってくれ」
「ああ。よろしく頼む」
ルーシスと先に宿屋へ入った。


「いらっしゃい、この雨の中大変だったでしょう。…あら、お嬢さんずぶ濡れじゃないの!」
「服を乾かしたいのですが、暖炉をお借りしてもよろしいでしょうか」
「ええ、いいわよ。着替えは持っているの? なければ私の服を貸してあげるから着なさいな」
「いいのですか? ありがとうございます」
宿屋の女将に服を借りて着替えた。

ルーシスがテーブルについて早めの夕食をとっている。私も向かいの席に座った。


「服を借りられて良かったな、メル。お前の慌てようったら…フフッ」
ルーシスは先ほどの私の様子を思い出し、笑っている。
「か、からかわないでよ…もう」
「前まではあのくらいのこと気にもしていなかったぞ。どんな心境の変化だ」
「それは…私だって恥ずかしいと思うことくらいあるわよ」
「ふむ…。私はお前の裸を何度も見ているっていうのに?」
「小さい頃の話でしょう? それに、ルーシスのことは家族と思っているから平気です」


「…家族、ね。では、恥ずかしいという気持ちはロードに対してのものか」
「……」
「異性と意識している…つまり、好きなんだな。あいつのことが」


「…っ!」
瞬間的に顔が熱くなるのが嫌でも分かった。
「顔が赤いぞ。図星か」
「…お、お願い。ロードには言わないでね。こんな気持ち、彼には迷惑だから…」
「何故だ。あいつがそう言ったのか?」
「ちがう…。彼には、大切な人がいるから…」
「…お前はそれでいいのか?」
「いいの、私は…側にいられるだけでいいの…」
「分かった分かった、このことは黙っておこう。それにしても…お前もようやく恋というものを知ったのだな。それが嬉しくもあり…少し、寂しいかな」
ルーシスはテーブルに置かれた食事を見つめながら、どことなく寂しそうに笑った。

「いやあ、参ったよ。馬の世話をしていたら急に土砂降りになってさ。今日はここで泊まりだな…」
ロードが入ってきた。


「ああ、メルヴィナ。着替えたんだな、そのほうがいい。濡れたままでは風邪を引くから…」


「……」
「どうした? 顔が赤いけど…熱でもあるんじゃ…」
「い、いえ。大丈夫です。私、今日は早く休みますね…」


「え? 本当になんともないか?」
席を立った私の顔を不思議そうに見つめるロードに、一瞬だけ目を合わせた。
「私のことは気にしないで下さい。それでは…」
逃げるように部屋へ入った。

この感情が彼に知られることを、どうして「怖い」と思ってしまったのだろう。
ベッドに横になり、少し熱を持った額を押さえながら天井をぼんやりと見つめた。
(こんなことばかり考えて…どうかしているわ)
自嘲気味に笑って目を閉じた。


 

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