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26話 – 外交特権(2)

  • 2016.03.11
  • 更新日:2018.10.08
  • RP日記

 

「――ローブをまとって歩いている連中を見たか? 奴ら何者なんだ? 使者の条約を行使しに来た者達か?」
「いや、奴らはアリノールから来た上級魔術師だ。あのお方がついにドラゴンの来襲を心配し始めたのだろう」
「ああ、いいだろう。この場所をどうやってドラゴンから守ろうかと考えていたんだ。もしドラゴンが現れた場合、運が良ければまず魔術師を喰らおうとする。その間に倒せばいい」
「ハッ。あの傲慢な馬鹿どもの鼻がへし折られる所を見たいもんだな。我々のような下級兵士をいつも見下している連中だ」
サルモール兵士の笑い声が聞こえる。声の大きさから、すぐ隣の部屋にいる。
袋から薬を取り出した。隠密の薬と、透明化の薬だ。それを飲み干し、そっと部屋に入る。

 


気付かれてはいない。
今目の前にいる兵士と、先ほど会話していた相手は奥へ行った。この建物の中に何人いるのかは分からないが、薬を飲んでおけば気付かれないだろう。
昔ルーシスに教えてもらった錬金術と隠密術が、このようなところで役立つとは…。
階段を上がり、窓から外を見て日光浴室の場所を確認した。


(この扉から外へ出て、中庭の向こうの建物がそうね…。警備の兵士は…)
窓から見える範囲で三人の警備兵を確認した。
この扉の反対側に立っていないことを願いつつ、慎重に扉を開けた。


薬を追加で飲み、静かに進む。前方をローブを着たサルモールが歩いている。先ほど兵士が話していた上級魔術師だろう。
「中庭の警備が手薄になっているじゃないか、何をしている。他の兵はどうした」
魔術師が兵士に声をかけた。
「ドラゴンを見たという奴がいたんだ。大使館の入り口近くに降り立ったと。何人かはそっちへ行った」
「何だと!? お前達、仕事を抜け出すために嘘を言っているのではないだろうな」
「本当だとも。嘘だと思うなら大使館入り口へ行ってみな、上級魔術師どの?」
「う…うむ」
魔術師は踵を返しこちらへ向かってきた。
いくら透明になっているとはいえ、ぶつかってしまっては元も子もない。慌てて通路の端にぴたりとくっついた。
魔術師は私の目の前を通り抜け、大使館へ戻っていった。
(ふう…危なかったわ)
効果が途切れないよう、再び薬を飲んだ。


(ドラゴンを見たという兵士がいたらしいけど…あまり騒ぎになっていないようね。もう倒してしまったのかしら。だとしたら、警備兵が戻ってこないうちに早く日光浴室へ入らなければ…)
ゆっくりと足を動かす。
だが中庭には雪が積もっている。まっさらな所を歩けば不自然に足跡が付いてしまうだろう。
兵士の残した足跡の上をなぞるように歩く。


(…っ!?)
ふいに兵士と目が合った気がした。硬直する。
(まだ、薬の効果は切れていないはず…。大丈夫、気のせい…)
心臓が大きく脈打つ。
「…おい」

(!!)
勘付かれたか。緊張で顔がこわばる。

「あの馬鹿の顔見たか? ドラゴンと聞いて真っ青になってたぜ。臆病な上級魔術師もいたもんだ」
「ハッ。あいつ真っ先に喰われるだろうな」
兵士はもう一人に声をかけ笑っている。

(よ、良かった…)
安心して身体から力が抜けるのをぐっと我慢し先へ進む。


日光浴室の入り口前。
扉の前にはサルモールの魔術師が佇む。この魔術師をどうにかしてどかさないと中へ入れない。
前もって窓から中を覗き、室内に誰もいないことを確認した。
(さてと…。ドラゴンのこともあって少しのことでも警戒を強めるはず…)
袋から薬瓶を取り出し、兵士が歩いている方向の壁に投げつけた。パリンと瓶の割れる音。
「何だ?」
兵士が音の出所を探す。
間髪入れず、今度は兵士のいない反対方向の壁に薬瓶を投げた。離れたところで音がする。
「おい、そこの魔術師どの。そっちを確認してくれ、手が足りない」
兵士が扉の前に立つ魔術師に声をかける。魔術師は舌打ちして扉から離れた。
(上手くいったわ。今のうち)
魔術師が背中を向け離れていくのを見届けて、素早く日光浴室の扉を開けた。

中へ入ると、話し声がどこからか聞こえてきた。
「――エチエンが話したんだろ? あんたが探してる爺さんの居場所を知ってるって、自分でそう言ってたよ」
「奴の話を確認したら、残りの金をやろう。約束通りな」


「それじゃ、話したのか! やっぱりな!」
「誰もが話す、結局はな…。さて、仕事があるんだ。報酬の残りが欲しいのなら、邪魔はしないでくれ」
彼らが会話している隙に横を通り抜けた。


執務室だ。手早く引き出しや箱の中を探す。
ウルフリック、デルフィンの機密ファイルと一緒に、ルリンディル第3特使からエレンウェンに宛てたドラゴンの調査報告書を見つけた。
その報告書を読む限りでは、サルモールがドラゴンの復活に関わっていないことが分かった。彼らも情報を得ようと、関連する人物を捜した様だ。
その人物は地下の独房に入れたと書かれている。
もう少し情報が欲しい。私も地下へ進んだ。


下を覗くと、今まさに尋問の最中だった。
「やめてくれ…頼む…もう洗いざらい話したんだ…」
兵士が独房の男性をメイスで殴りつける。
「やめてくれえええ!」
「エチエン、いつものように最初から始めよう。そこまで頑なになるというのなら、こちらも…」
「いや、待ってくれ! …さっきも言ったろう? 何も知らないんだ…。リフテンに住んでる年寄りがいる。彼があんたの探してるエズバーンかも知れないが、断言はできない。彼は老人で、ちょっとイカれて見える。知っているのはそれだけだ…」
「それでその老人の名前は…?」
「名前は知らない。もう何度も言った通り…ぁああああっ!!」
男性は何度もメイスで殴られ、絶叫した。
見ていられない。

「何だ、貴様! どこから来た!?」
階段を下りて独房へ近づくと、尋問官がこちらを向いた。薬の効果が切れていたことに気付く。


(くっ、しまった…!)
こうなってしまっては、やるしかない。
サルモール二人にシャウトをぶつけ、よろめいたところへ炎を浴びせる。起き上がったところへまた”声”を使い、なすすべもなく彼らは炎に包まれながら死んでいった。

「……」


「なんだ? あんた…。あんなデカイ炎をぶっ放したら火事になるぜ…」
「…もう少し穏便にことを運びたかったのですが、仕方ありません。私も情報が欲しくてやってきた一人です」
「なんだよ、あんたもか…。何にも知らないぜ」
「サルモールはエズバーンという男性を探しているそうですね」
「ああ、そうだ。そこの机の横に箱があるだろ? ルリンディルが書類を入れたのを見た。それを読んでみな」
言われたとおり、箱の中にエズバーンの機密ファイルが入っていた。
「エズバーン…ブレイズですか…。彼がリフテンにいるという情報は確かなのですか?」
「リフテンで、彼と思しき男を見たことがあるってだけだ。それで捕まっちまってこの有様さ。その男の名前も、どこに住んでいるかも知らない。だが、連中はかなり色めき立っているように見えたな。どうやらドラゴンが絡んでいるらしい」
「そうですか…。確かめる価値はありますね」
エチエンの拘束を解いた。
「助けてくれるのか…? すまねえ。衛兵が死体を引きずっていくのを見たんだ。多分そっちが出口だ、行こう」
エチエンと独房を出たところを、サルモールに見つかった。


「そこの女! よく聞け。お前は囚われの身だ。共犯者も捕まえたぞ」
衛兵が二人と、マルボーンだ。
「すぐに降伏するか、二人とも死ぬか、どちらかだ」
「気にするな。自分は死んだも同然…」
マルボーンが諦めの表情で呟く。
「マルボーン! こっちへ!」
衛兵の下に駆け寄り、マルボーンが彼らから一歩離れたのを見計らって揺るぎなき力のシャウトを当てた。衛兵がよろめいている隙にマルボーンをこちらへ来させ、起き上がって向かって来る敵に魔法をぶつける。


床に横たわる何体もの死体を眺め、マルボーンはため息をついた。
「…俺も、お前も、これでサルモールに一生狙われ続けるだろうな。それだけの価値があったならいいが…。こんな結果になることを予期しておくべきだった。デルフィンに言いくるめられるとは、なんて様だ」
「…とにかくここから逃げましょう」
衛兵の死体から落とし戸の鍵を取り、下へ降りた。

洞窟にはまだ死んで間もないようなフロストトロールの死体があった。
体には剣で切り刻まれた傷がある。おそらく人の手で殺されたのだろう。
これが落とし戸から落とされた死体を処理していたのか、散らばる骨の多さに吐き気がする。
幸い洞窟の出口はすぐそこにあった。


「なんの義理もないのに助けてくれて…恩に着るよ」
エチエンはそう言って走り去っていった。
「…マルボーン。協力してくださり、ありがとうございました。どうか、生き延びてください…」
「…お前もな。サルモールには気をつけろよ」
マルボーンと別れ、一人になった。用意していたフードを被る。
(そう言えば…。エチエンはあの格好で大丈夫かしら)
この寒空の下をズボンだけで、裸足で行った彼を心配する。
(だ、大丈夫よね…きっと。ノルドには見えなかったけど…)

自分も早く戻ろう。マルボーン達が去っていった道を同じく歩き始めた。
「…メルヴィナ」


驚いて声の聞こえたほうを向く。岩陰から馬に乗ったロードが出てきた。
「ロード…!? 何故ここに?」
「ルーシスに、君は間違いなくこの洞窟から脱出するからここで待つように言われたんだ。念のため洞窟の中も確認しておいたが…無事でよかった」
「…ということは、洞窟のフロストトロールを倒したのはあなたでしたか…あの、ルーシスは?」
「ドラゴンブリッジの宿屋で待ち合わせてる。行こう」
そう言って、ロードは手を差し伸べた。
「え?」
「ここから徒歩で戻るのも大変だからな。馬に乗せていく」
「え、でも…」
「大丈夫、落とさないよう支えるから。さあ」
「は、はい」


彼の手を掴み、鐙に足を乗せて重心をかけると、グッと引っ張りあげられた。
「あの、二人も乗って、平気なんですか?」
「ドラゴンブリッジまでなら平気だろう。こいつは体力があるからな」
「そうですか。よろしくお願いします…」
「ゆっくり進ませるけど、しっかり掴まっていろよ」
「ええ…」
ロードの腕を掴む。
「それじゃあ落ちるぞ? もっとしがみついていいから」
「わ、わかりました」
恐る恐る彼の背中に両腕を回した。
「そう、それなら大丈夫だろう。前が見えないから頭をもう少し下げて…。動くぞ」
馬がゆっくりと進みだす。


虫の声も聞こえないほど静かな夜だった。
馬の蹄の音だけが、振動と共に小気味よく響いてくる。

「…静かだな。狼の遠吠えも聞こえない。これなら無事にドラゴンブリッジまで行けそうだ」
「…」
「晩餐会はどうだった? 任務は成功したんだろう?」
「……」
「メルヴィナ?」


今になって、震えが止まらない。
シャウトと魔法を使って、4人のサルモールを殺した。
この震えは、自分が殺されたかもしれない恐怖なのか。
いや…なんのためらいもなく殺してしまった自分への恐怖なのだろう。
「…大使館でサルモールを何人も殺しました。…変ですよね。今まで、山賊を殺した事だってあるのに…」
「どうした…?」
「今更…恐怖を感じるなんて…。これから私は、一体何人殺して、何体のドラゴンを滅ぼしていくのか考えたら…。震えて、しまって…。ごめんなさい」
「……仕方ないさ。この世界は、自分を守るためにそうしなければならないことが多いのだから。君がそうすることで、助かる人もいたのだろう?」
マルボーン達の顔が浮かび、静かに頷いた。
「…それに、君が極力手を汚さずにすむように、俺やルーシスがいるんだ。頼ればいい」


「すみません…。私、ドラゴンボーンとして…もっとしっかりしますので。今だけ…」
震えを取るように、彼の背中に回す両手に力を入れた。


 

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