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25話 – 外交特権(1)

  • 2016.03.05
  • 更新日:2018.10.08
  • RP日記

 


翌日、ロードと二人でカトラ農場に向かった。


「ルーシス!」
数日振りの懐かしい姿を見つけ、駆け寄る。ルーシスは振り向いて私に気付くと驚きの表情を見せた。


「メル…! 感情が戻ったのか!?」
笑顔で頷くと、ルーシスは満面の笑みを浮かべた。
「思うほど深刻でもなかったか、もう一生あのままかと気にしていたのだが。とはいえお前の笑顔を見られて嬉しいよ、本当に…」

「さ、もういいかしら? 晩餐会の時間が迫っているの」
離れて様子を見ていたデルフィンが声を掛けた。


「大使館に持ち込みたい物はマルボーンに渡しておいた?」
「はい。準備は整っています」
「晩餐会への招待状を手に入れたわ。警備を通り抜けるには、あなたが招待客だと信じ込ませる必要がある。つまり、それらしい格好をしてなきゃだめってこと…だけど、しっかりドレスを着てきたのね」
「ええ。ルーシスから言われていましたので」
「そう、こちらでも用意はしておいたけど不要だったみたいね。それと、あなたの立ち位置としては、ホワイトランの従士としてアヴェニッチ執政の代理で出席するというシナリオよ。彼の欠席手紙に細工をしておいたの。彼は今頃ベッドの上で寝込んでいるわ」
「なんだ、毒でも盛ったのか?」
ルーシスが聞く。
「まさか。身体の疲れが取れる薬草を食事に入れただけよ。数日間は身体が重くて動けないでしょうけど…。ホワイトランにいる私のコネが上手くやってくれたわ」
「なるほど、手段を選ばないな。しかし、ホワイトランの従士と名乗ってしまってはメルの素性を明らかにするようなものだぞ、問題は無いのか」
「ただの招待状ではあの女は騙せないでしょうからね。嘘の中に本当のことを一つでも混ぜておかないと。ただしメルヴィナ、あなたはベロニカという偽名を使ってもらうわ。くれぐれも従士という身分以外は口を滑らせないように言葉を慎重に選んで頂戴。さあ、大使館行きの馬車に乗る準備はいいかしら? 荷物は一切持っていけないわよ」
「分かっています。では、行ってまいります」
馬車に乗り込もうとしたところをルーシスが引き止めた。
「デルフィン、少し待ってくれ。メルと話がしたい」
「…あまり時間はかけられないわよ」
「構わん。すぐ終わる」


「メル。お前のことだ、強行突破するような作戦ではないのだろう? だが、そうやすやすと素通りできるほど警戒は緩くない。やらなければならないときは非情になれ。敵が近づく前に殺せ、いいな…?」


「…分かったわ」
「絶対に無理はするな。生きて戻って来い」
「…メルヴィナ。成功を祈ってる、どうか無事で」
二人の顔を交互に見つめ、強く頷いて馬車に乗り込んだ。

サルモール大使館に着いたのは18時過ぎ。他の招待客の馬車が既に何台か停まっている。
「乗り物でご到着とは! 恐れ入りました!」
側で座っているレッドガードの男性がこちらを見た。彼も招待客だろうか。
「遅れたのは、この神に見捨てられた山に来る途中で迷ったからだ。わざと遅れようとしたわけじゃねえ」


この男性、どことなく酒の匂いを漂わせている。
「もっと酒が飲まれるべきだ、そう思わねえか?」
「あの、もう既に飲んでいますよね?」
「ここに来る前に一杯だけだ。こう寒くちゃ身体を温めなきゃならねえ。本当だぞ?」
そうは見えませんが、と軽く笑うと、男性もニヤリと笑った。
「遅れたもの同士、仲良くしようじゃねえか。パーティーの後で、一緒に馬車に乗らねえか? 分かってるさ。会ったばかりだが、考えてみろ。パーティーが終わる頃には親友だ。楽しみだな」
「…考えておきます」
「つれねえなあ」


「サルモール大使館へようこそ。招待状をお見せ下さい」
デルフィンから渡された招待状をサルモールの兵士に見せた。
「ありがとうございます。お入りください。パーティーはもう始まっていますよ」
「ええ」
私の後に続くように、レッドガードの男性も大使館へと入った。


中へ入ると、ハイエルフの女性が近づく。
「ようこそ。お会いしたのはこれが初めてですね。スカイリムのサルモール大使のエレンウェンです。あなたは…?」
この女性がエレンウェンか。慌てて一礼をする。
「ベロニカと申します。エレンウェン大使、お会いできて光栄です」
「ああ、招待客リストでお名前を拝見しました。もう少しあなたのことをお聞かせ下さい」
大使は鋭い視線を向ける。私を怪しんでいるようにも見えた。
「私はホワイトランの従士です。出席する予定だったアヴェニッチ執政が生憎床に臥せておりまして、この度私が彼の代理として参りました」
「そうでしたね。その若さで従士となるにはさぞかしご苦労なされたのでしょう。是非そのお話もお聞かせください」
この女性を適当な嘘では誤魔化せないだろう。どう続けるか…言葉を詰まらせると、助け舟が出された。
「大使…大使!」
カウンターの奥から、マルボーンが声を掛けた。
「一体何なの、マルボーン」
「アルトワインが切れたもので。開栓してよろしいか? アレンシアの赤を…」
エレンウェンは苛立ちを抑えつつ彼に答える。
「もちろん。言ったはずよ、つまらないことで私の邪魔をしないようにと」
「はい、大使夫人」
興が醒めたのかエレンウェンはこちらを向くと軽く会釈をした。
「失礼します。後ほどお目にかかりましょう。どうぞお楽しみ下さい」


「…マルボーン。助かりました」
小さな声で礼を言う。マルボーンはゴブレットを私に手渡し、ワインを注ぎながら囁く。
「中に入れたようだな。衛兵の注意を逸らしたら、奥の扉を開けてやる。そしたら行け。お互い、今日を乗り切れることを祈ろう」
「ええ、幸運を」
ワインを一口飲み、笑顔で頷いた。


各地の首長、権力者が一堂に会する。
幸い、面識のない人達ばかりで声を掛けられることもない。
目立たないように隅の長椅子に腰掛けた。

さて、どうやって衛兵の注意を逸らそうか。何か騒ぎでも起こして衛兵の注意をそちらに向けさせ、その隙に奥へ行くのが良さそうだ。
けれど、誰に騒ぎを起こしてもらおうか…。頼めるような適任者は…。
「このあたりで酒を飲むには、どうすればいいんだ?」
遅刻仲間のレッドガードの男性が隣に座った。
「お酒ならたくさんありますでしょう?」
「どのウェイターも、酒を持ってこねえんだ。エレンウェンから酒を出すなと言われてるらしい。あのクソッタレめ」
「あら…そうだったのですか」
「このままだと、また暴れることになるぞ…」
適任者がいた。彼に一役買ってもらおう。

給仕の女性からコロヴィアン・ブランデーを一杯もらい、男性に渡した。


「喉が渇いているでしょう? どうぞ」
「ああ、貧乏人とケチだらけの集団の中で、なんて気前のいい奴だ! まだ名前を聞いてなかったな、なんていうんだ?」
「ベロニカです」
「ベロニカか。俺はラゼランっていうんだ。何か頼み事があるなら遠慮なく言ってくれ! 友よ」
余程酒が欲しかったのだろう。大袈裟なほどに喜んでいる。
「…ではラゼラン。早速ですが、して頂きたいことがあります」
「親友のためなら、何だってするよ。何すりゃいいんだ?」
「騒ぎを起こして欲しいのです。何分間か、皆の注意を引いてもらえれば…」
「それだけか? ぴったりの相手に頼んだようだな。騒動を起こすのは得意なんだ。しっかり見ててくれよ!」
「ええ、お願いしますね…」

ラゼランはホールの中央に立つと、大きな声をあげた。
「みんな、聞いてくれ! 頼むよ、聞いてくれ! 言いたいことがあるんだ!」


「エレンウェンに乾杯だ! 我らの女王に!」
皆がラゼランに注目する。
「もちろん、これはものの例えだ。実際に彼女をベッドに誘いたい奴なんて、いるわけがねえ…。とはいえ、お前達のほとんどはベッドを共にしている! しかし…もちろんこれは例え話にすぎない!」
話の内容はともかく、上手く注意を引くことができたようだ。衛兵がラゼランに近づくのを見て、そっとマルボーンのところへ行った。


「さあ、行こう! 誰かに見られたらマズイ」
マルボーンがカウンター奥の扉を開け、中に入る。私がくっつくように続いて中へ入ると、彼はすぐに扉を閉じた。
「これまではまあまあだ。抜け出す姿を見られてないといいな。厨房を通らないといけない。道具は食料庫に隠してある。離れるな、話しは俺がする。いいな? ついてこい」


厨房ではカジートの女性が料理を作っていた。
「誰? キッチンに変な匂いを持ち込まれるのは嫌なの、分かるでしょ?」
「お客だ、具合が悪いそうだ」
「お客さん? キッチンに? それは規則違反でしょう…」
「ツァヴァーニ、規則はどうした? ムーンシュガーの摂取が許されてるとは知らなかったぞ。大使に聞いてみるか…」
「ちっ! 出て行きなさい。何も見なかったわ」

マルボーンは食料庫に入ると道具箱を指差した。
「お前から預かったものはその中だ。そっちの扉から外に出て、別棟のエレンウェンの日光浴室へ行け。執務室にお前の欲しがっている機密書類があるだろう」
「マルボーン、ありがとうございます。あなたも気をつけて」
「巡回員に気付かれないよう、お前が出た後で鍵をかける。…しくじるなよ」
荷物を受け取り、扉を開けた。


 

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