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24話 – ソリチュード

  • 2016.02.28
  • 更新日:2018.10.08
  • RP日記

 

窓から差し込む光で目が覚めた。この明るさから朝も遅いことに気づく。
急いで身支度を済ませて部屋を出ると、ロードが本を読みながら朝食をとっていた。
「あ、おはようございます。ごめんなさい、寝坊しました…」
「おはよう。俺もさっき起きたから気にするな。それに、まだ9時過ぎだから大丈夫だよ」
「9時? 随分眠ってしまったようですね…」
「たまにはいいんじゃないか? 時間を気にせず眠るのも」
彼は笑いながらパンを齧った。テーブルの向かいに座り、私も朝食をとる。
「昨日は雨が降ってゆうべまで出掛けられなかったけど、今日は晴れて良かったな。一日中読書は疲れたよ…」
「あら、でも今も本を読んでますよね?」
「これ、あと少しで終わりなんだ。実は昨日の夜からずっと読んでいて…」
「それで起きるのが遅くなったのですね」
「そうなんだ」
ロードは困ったような顔をしてもう一度笑った。

私が朝食を終えた頃、ロードも本を読み終えたようだ。
「さてと、今日こそはソリチュード案内が出来るな」
「そうですね、よろしくお願いします。あ、いけない。ルーシスから晩餐会に着ていく服を用意するように言われた事を忘れていました」
「それじゃ、まずはレディアント装具店へ行こうか。この時間ならもう開店しているだろう」

「いらっしゃい。これはまたチャーミングなお客様ね」
店に入ると、少し不機嫌そうなハイエルフの店員が挨拶をする。
「あの、パーティーに着ていく服を探しているのですが…」
「そうねえ…これならいいんじゃないかしら」
店員は面倒くさそうに何着かドレスを出す。
「あ、このドレスが素敵ですね。試着してみてもいいでしょうか?」
「ええ、どうぞ」
店の奥で着替えをし、ロードに見せた。
「あの…どうでしょうか」

「うん…。いいと思うよ。けど、そんな色でいいのか? もっと明るい色でも…」
「いえ、あまり目立ちたくありませんから。それに、落ち着いた色で私は好きです」
「まあ、元が綺麗だからそのくらい抑えた色でもいいか…」
「ええ。上品な光沢のある生地で綺麗ですし、肌触りもとても良いですよ」
そう答えるとロードは苦笑いをした。
「…君の事を言ってるんだけど?」
「えっ? ……あ…」
返す言葉が見つからず、照れ笑いを浮かべるしかなかった。
「ン、ンンッ」
店員がこちらを睨んでいる。
「あ…すみません。このドレスと靴を下さい」
「やっと…。どうもありがとうございます」
元の服に着替えなおし、ドレスと靴を包んでもらった。

 


「メルヴィナは何度かソリチュードに来ているんだったな。どこか行きたいところはあるか?」
「そうですね…。聖堂やブルーパレスに行ったことがないので一度入ってみたいです。他にも、市場などはあまりじっくりと見て回ったことがありません」
「それじゃあ色々と回ってみようか」


そう言うと、ロードはさりげなく私の手を掴んだ。
「…っ?」
「恋人のふりするなら、このくらいはしとかないと」


「こっ、恋人、ですか…」
「ん? ジョーンに俺の恋人だって話したんだろう?」
「そう、ですが…。あれは、ルーシスが身分をごまかせと言っていたから…」
「分かってる。…嫌か? こういうの」
「い、いえ。少し…びっくりしただけで」
「そうか、ごめん。けど、もう少しだけ…な」

繋いだ手から温もりが伝わる。
何度か彼の手をとったことはあった。そのときは特に意識することもなかったのに。
今は違う。
昨日の夜、眠れずに散々考え、本で読んだ知識から出した結論。
きっと、この胸の高鳴りが。この気持ちが…。

市場で新鮮なフルーツを買い、スパイシーワインの味見をする。パン屋に寄ってクロスタータを買い、初めて食べ歩きをした。
神々の聖堂にも連れて行ってもらった。
他にもブルーパレスなど…。色々なところを回って、気付けば夕暮れ時だった。

最後に案内されたのは、皇帝の塔に続くアーチ状の橋だった。
そこから街を見渡した。

「わあ…いい眺めですね」
「だろう? この場所、気に入ってるんだ」

「ロード、今日はありがとうございました。とても楽しかったです」
「そうか、良かった」
「ひと時の間、私は、自分がドラゴンボーンだということを忘れてしまいました…。ですが、気分転換も今日まで…。明日の晩餐会、無事に任務を果たします」
「…ああ。必ず成功させてくれよ」
「はい、必ず…」

しばらくの間、沈黙が続いた。

「…メルヴィナ。少し、自分の話をしてもいいか?」
「はい、何でしょう」
私が頷いたことを確認し、ロードは街へ視線を落とす。


「…彼女が死んでから今まで、俺はがむしゃらに剣を振るってきた。うわべではスカイリムの民を守るためと言って、本心では自分の復讐心を満たすために山賊を数え切れないほど殺してきた…。けれど、どれだけ賊狩りをしたところで、気持ちは一向に晴れなかったんだ」
「…」
「そのうちに、生きる目的が何なのかさえも見失っていた。腕に自信もついて、そこいらの山賊が敵ではなくなったことで余計に物足りなさを感じて、自分から山賊の根城に飛び込むなんて無茶もした…。今思えば、戦って死ねるならそれでいいと考えていたのかもな」
「……」
「そんな時、君と出逢ったんだ。帝国兵になって、護衛をしたのは実は君が初めてでさ。人を守りながら戦うことの難しさを知ったよ。非力な女性なら尚の事、敵を近付けさせない様にどう立ち回るかも考えるようになった。…まあ、前に飛び出す癖は抜けないんだけどな、ハハ」
「とてもそうは見えませんでした。慣れた感じでしたし…」
「そりゃあな。がっかりされたくなかったから、一生懸命だったよ」
「そう、だったのですか…。あなたと共にいて敵の攻撃を受けたことが一度もなかったのは、あなたが気を遣って行動して下さったからなのですね。…ありがとうございます」
「…礼を言うのは俺のほうだ。君のおかげで、この剣を復讐ではなく、人を守るために振るおうと思えたのだから…」
「え?」
ロードは向き直るとじっと私を見た。
「君が俺に気付かせてくれた。過去に囚われず前を見て生きることを。後悔していないと胸を張って言える生き方をしようと。だから…」


「ここで、誓いを立ててもいいか? もう、復讐心で心が揺らぐことのないように」

「ロード…?」

彼は私の前に跪くと頭を下げた。
「…ドラゴンボーンの君に誓う。俺はこれから先、君の剣となり君を守ることを。…受けてくれるのなら、手を…」
「……」
差し出された彼の右手に、そっと自分の左手を重ねる。

ロードは「ありがとう」と小さく呟くと、手の甲にくちづけた。

――私がドラゴンボーンだから、私を守ってくれるのだとしても。
それで十分…あなたの側にいられるのなら。
私は…あなたが…。きっと、気付かなかっただけで…本当は初めて見たあの日から、あなたのことが――

声にならない言葉を飲み込んだ。

その夜。
ウィンキング・スキーヴァーの奥で隠れるように座っている一人のウッドエルフがいた。彼がマルボーンだろう。


向かいの席に座り、共通の友人から頼まれて来たと言うと、彼は声を潜めた。
「彼女がお前を? …彼女を信じるしかないな。いいか、サルモールの警備は厳重だ。何も持ち込めない。必要な物はここで預かり、大使館に持ち込んでおいてやろう。あとはお前次第だ」
「では、これを預かってください…」
大量の薬が入った布袋を渡すと、彼は目を見開いた。
「薬をこんなに大量にどうするんだ? 武器はいらないのか?」
「はい。扱えないものはいりませんので。要するに、見つからなければいいのでしょう?」
「そりゃそうだ。何か考えがあるんだな、わかった。スパイだと悟られずにパーティーへと潜り込むのがお前の仕事だ。後のことは任せてくれ」
「お願いします。あ、もう一つ。これは身に着けていても大丈夫でしょうか?」
首元のアミュレットを見せた。これはルーシスと別れる時に、お守りだと言って彼が首に下げていたのを私にくれた物だ。
「アミュレットか…。まあ、アクセサリーの一つくらいは身に着けていても問題ないだろう」
「良かった、ありがとうございます」
「明日の15時、馬屋で彼女と会ってくれ。自分はこれで失礼する。…いいか、ヘマはするなよ」
そう言い残し、マルボーンは逃げるように酒場を出て行った。

離れた場所で待っていたロードに声を掛けた。
「済んだか?」
「ええ、あとは私次第。明日の朝準備をして早めにここを出ます」
「馬屋まで一緒に行こう。途中で何かあったら嫌だからな」
「すぐ近くですから私一人で大丈夫とは思いますが…お言葉に甘えても?」
「勿論」

明日のために早めに床についた。


 

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