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23話 – オラフ王の焚刑祭(3)

  • 2016.02.22
  • 更新日:2018.10.08
  • RP日記

 


その日は朝から雨が降っていた。祭のことを心配していたが夕暮れ時には晴れ、オラフ王の焚刑祭は予定通り開催した。

王の彫像は大きく燃え盛り、その勢いのあるさまを見上げて歓声をあげる人々。
色とりどりのお菓子、美味しいワインを、吟遊詩人が歌う声に耳を傾けながら笑いあい楽しむ姿。
ひとときの平和な光景を見ていたら、自分の使命も忘れていた。


「ロード。何か考え事ですか?」
一人祭から離れ、街の外を眺めているロードに声を掛けた。
「いや…。俺のことは気にせず君は楽しんできなよ」
「ええ、もう十分堪能しました。ただ一つ心残りを除いて…」
「…何度言われても無理だ」


「嘘でしょう? 本当はあなたも祭に参加したいはずです、吟遊詩人として。ただ、戻るきっかけが見つからず思いあぐねているだけ」


「……どうしてそう思う?」
「あなたの表情を見れば分かります。シロディールから吟遊詩人になるためにわざわざソリチュードまで来たあなたは、人一倍音楽を愛していたはず。そんなあなただから…完全に祭から離れられず、かすかに歌声が聞こえるこの場所で耳を澄ませている。彼らを横目で見ながら」
「…」
「今が、絶好の機会だと思いませんか。存続の危機だった祭が、あなたの協力で再開できたのです。あなたが大学へ戻ると言って拒否される理由が、私には思い浮かびません」
「だが、俺はもう楽器には…」
「そうやって理由をつけて、あなたは前へ踏み出すことから逃げている。本当に、もう一生リュートには触らないつもりですか? それでこの先、例え死の間際でも…音楽の道を絶ったことを後悔していないと胸を張って言えますか?」
「……」
「…彼女の死は辛かったと思います。当然です。ですが、彼女が亡くなったのは音楽のせいじゃない。あなたのせいでもない。もう…自分を責め続けるのは終わりにしませんか」
「…きついことを言うんだな」
「すみません。どうしてもあなたに考えて欲しくて。過去に囚われず、前を見て生きることを…。あなたはもう、十分に苦しんできたと思います。あなたがこれからも苦しみながら生きていくことを、本当に好きなものを押し殺していくことを…彼女は望んでいるのでしょうか…」

しばらくの間目を伏せていた彼は、ふう、と息を吐いたあと私を見た。
「…そうだな。君の言うとおりだ。…行こう」
ロードは広場で歌っているジョーンの元へ行った。

「…ジョーン」
ロードが声を掛けると、二人は演奏を止めた。
「よお、お二人さん。楽しんでるか?」


「…今更、こんなことを言うのも気が引けるんだが。その…俺も演奏に加わって構わないか?」
ジョーンは何かを察したようで、笑顔で頷いた。
「おお! ちょうどリュート奏者が欲しかったんだ。ぜひ参加してくれ! リュートは大学の二階にある、持って来い。調弦しておいたからすぐに弾けるぞ」
「…ありがとう。手慣らしに一曲弾いてくるから、少し待っていてくれ」
「おう」

ロードが行ったあと、ジョーンは微笑みながら私に言った。


「俺が何度説得してもあいつは楽器を手に取ろうとしなかった…。あいつが変わろうという気になれたのはきっと、あんたのおかげだな」

しばらくして、ロードはリュートを抱えて戻ってきた。
「ロードライト、もう大丈夫か?」
「ああ、なんとか…な」
「よし、じゃあ手始めに簡単なのからいくか。アタフ、準備はいいか?」
「はい、よろしくお願いします」


ジョーンが太鼓を叩きながら歌い出し、それに合わせてロードとアタフが演奏を始める。

楽器が一つ加わるだけで、曲に華やかさが増した。
変化に気付いたのか、祭を楽しむ人々の中には足を止めて彼らの演奏に聴き入る人もいた。


とても数年ぶりとは思えないほど、ロードは流れるような指捌きでリュートを奏でている。
ジョーンも、彼のリュート演奏を心待ちにしていた一人なのだろう。時折、歌いながら嬉しそうにロードを見ていた。

ずっと聴きたかった音色。
その場に立ち尽くして、身動きが取れない。彼の演奏に目が釘付けになって…彼しか見えなかった。
数年間、ずっと求めていた…。

私が焦がれていたのは、この音色だけ?
それとも……。


演奏の始めこそぎこちない様子だった彼が、吹っ切れたように晴れやかな表情に変わっている。
彼は私を見ると、嬉しそうに目を細めた。

その一瞬、私の胸の奥で何かが弾けた。


「…っ!?」
胸を締め付けるような、この感じは何だろう。

初めて抱く感情に戸惑いながら、やがて祭は終わり宿への帰り道をロードと歩く。


「メルヴィナ。…今日は本当にありがとう。君のおかげで少しでも前に進む決心がついた」
「…いえ。私、あなたに楽器を手にとって欲しい一心で、無神経なことを言ってしまったのではないかと…ごめんなさい」
「いや、あのくらい言われなきゃ目が覚めなかった。本当は…誰かに背中を押してもらいたかったのだろうな。しかし…数年間触らずにいたのに、手は覚えているものなんだな。自分でも驚いたよ」
「そうですね。とても良い演奏でした。あの、リュートはいつ頃から?」
「父さんが趣味でリュートを弾いていたのを見て育ったんだ。物心ついたときからリュートに触れて遊んでいたよ。いたずらして何度も弦を切っちゃって、その度に怒鳴られたなあ…」


「フフッ。あなたにもそんな子供時代があったのですね。私も小さな頃、本のページをバラバラにしてルーシスに怒られたことを思い出します…」


「…メルヴィナ、笑顔が…!」
「え?」
言われて初めて、自分が笑っていることに気付いた。
「あ…私…」
平坦な感情にいつのまにか起伏がついている。
「も、元に戻っていますね。何故でしょう…」
「そうか、戻ったんだな…!」
ロードは突然私の体を引き寄せた。
「…っ!?」


「ずっと心配してたんだ…。良かった、本当に…」
「…っあ、あの、急に、なんですか…?」
そう言うと彼は慌てて身体を離した。
「あっ、ごめん。嬉しくて、つい…」

「い、いえ。私こそ、取り乱してしまって…」

「…メルヴィナ?」


「……」
何故か彼の顔を直視できず、目を逸らしてしまった。

「…すまない、そんなに嫌だったか?」
「いえ…違います。ごめんなさい、驚いてしまっただけなので…」

宿に戻り、ベッドに横になってもしばらくは胸の高鳴りが治まらなかった。
急に、どうしてしまったのだろう。この胸の鼓動は、感情が戻ったことの反動なのだろうか。
この気持ちにどう説明をつけたらいいのか分からず、枕を抱え夜更けまで悶々としていた。


 

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