FC2ブログ移転のお知らせ

20話 – 闇に眠る刀剣(3)

  • 2016.01.09
  • 更新日:2018.10.08
  • RP日記

 


イヴァルステッドから馬車で来たので、予定よりもずっと早くリバーウッドに到着した。

前方からハドバルが歩いてくる。
「おお! メルヴィナじゃないか、リディアも。頻繁に会うな、よほどリバーウッドが気に入ったか」
「ハドバル、お変わりなく。巡回ご苦労様」
「リディアも真面目に従者を務めてるな、結構」


「そうだ、メルヴィナ。ロードならゆうべから宿屋にいるぞ。待ち合わせしてたんだろう? きっと今頃酒でも飲んで待ちわびているだろう、早く会いに行ってやれよ」
「え? ええ」
「色々忙しいみたいだけど死ぬなよ。それじゃ」

ハドバルと別れ、宿屋へ向かう途中ルーシスが聞く。
「メル、あの男は誰だ?」
「ああ、ルーシスは初めて会うのね。彼がハドバル。ヘルゲンから脱出するときに助けてくれた人よ」
「そうか、今度改めて礼をせねば」
「ロードはソリチュードにいると思っていたけど、もうリバーウッドへ来たのね」
「うむ。私が来るように言っておいたのだ。丁度よかったな」
「そうなの。…ねえ、ルーシス。ロードって…」
「うん? どうかしたか?」
「あ…いえ、なんでもないわ」

ロードの名前を聞いたことで、私の中の彼の記憶が二つ存在することに気付いた。
一つは最近出会って共に行動してくれている彼の記憶。もう一つは…。

宿屋に入り、ロードを探す。彼はカウンターで蜂蜜酒を飲んでいた。
「おい。まだ明るいうちから酒浸りか?」
ルーシスが声を掛ける。


「おお、戻ったか。昨日から待ってたんだ。皆無事だな、よかった」
「色々話したいことはあるが…。まずしなければならないことがあるんでな。全員来てくれ」
ルーシスはそう言うと、先にデルフィンの隠し部屋に入っていった。


既にデルフィンは戻っていた。
「あら、また一人増えたの? …付けられてはいないみたいね、まあいいわ。さあ、私の考えを話すわよ。サルモール大使館に入り込む方法を見つけたわ」
「思ったより早かったな」
「私には長い経験があるのよ、忘れたの? サルモールが私を探している間、私もサルモールを監視していたのよ」


「それで? どうやってサルモール大使館に侵入する気だ?」
「サルモール大使エレンウェンは、定期的に晩餐会を主催しているわ。金と人脈がサルモールに擦り寄る機会よ。晩餐会にメルヴィナ…あなたを紛れ込ませるわ。大使館の中に入ったら、晩餐会を抜け出して、エレンウェンの機密書類を探して。大使館内には私の情報提供者がいる。手助けになるはずよ」
「その協力者は信頼できるのだろうな?」
「彼の名はマルボーン。ウッドエルフで、サルモールを心底嫌ってる。信用していいわ。今度の晩餐会は薪木の月5日。十分に準備を整える時間があるわね。晩餐会の前日の夜にマルボーンをソリチュードのウィンキング・スキーヴァーに待機させておくわ。場所は分かる?」


「…酒場ですね、分かります」
「その間に、私はあなたのためにエレンウェンの晩餐会の招待状を用意しておくわ。マルボーンと手はずを整えたら、ソリチュードの馬屋で会いましょう。質問は?」
「一つ。その任務が失敗したら彼女はどうなる?」
ルーシスが尋ねる。
「サルモールの警備兵に殺されるでしょうね。死にたくなかったら確実に任務を成功させることよ。分かったわね」
「…お前は大使館には来ないのだな」
「当たり前じゃない。素性が知れている私では目立ちすぎる、見つかるわけにはいかないの。でもメルヴィナのことは今のところは誰も知らない」
「……」
「ルーシス、いいの。これは私に任せられたことだから、私が責任を持って事に当たります。デルフィン、ソリチュードで会いましょう」
デルフィンを睨むルーシスを宥め、話を終わらせた。


「さて…メル、これからどうする?」
「そうね。まだ明るいから今日中にホワイトランへ行って、とりあえずはそこで一泊しましょうか。晩餐会まで日にちもあるし、早めにソリチュードへ行けば色々と準備ができるわね」
「そうだな。…ここの宿屋に泊まるのは気乗りしなかったので丁度よい」
「では行きましょう」
「…ちょっと待ってくれないか」
歩き始めた私達をロードが止めた。
「どうかしましたか?」
「詳しいことはホワイトランに着いてからでもいいんだが…一つだけ。メルヴィナ、記憶が戻ったのか?」
ロードに向かって静かに頷いた。その横でルーシスが話す。
「ああ、すまん。ロードには言ってなかったな。メルは記憶を取り戻した…が」
「ん? 何か問題でもあったのか」
「感情表現が上手く出来なくなったようだ…。いや、出来なくなったというより…喜怒哀楽といった感情が欠如している」
「…!」

ホワイトランへの道中、皆一様に言葉数も少なく静かに歩いていた。
自分自身は、感情がなくなってしまったという感覚が無い。こうして今までどおりに考えることも出来る、会話も出来る。何も不都合はないはず。なのに…。
隣で歩いているルーシスを見ると、彼は目を合わせ悲しそうに笑った。その表情の意味は理解できるのに、なんとも思わなくなってしまっている。

ドラゴンボーンになるということは、人の気持ちを消していくことなのだろうか。
強い心を得るには、感情に揺さぶられないようにするには、このままでいたほうがよいのだろうか。

日も暮れて空が暗い青に染まる頃、ホワイトランへ着いた。
バナード・メアで食事を終え、一息ついていると外に出ていたルーシスが戻ってきた。
「メル、話がある。そこの二人も来てくれ、今後の話だ」


「どうしたの?」
「ソリチュードでの行動についての考えがまとまった。まず、リディア。君とはここでお別れだ」
「ルーシス殿。何故ですか?」
「ソリチュードは人の出入りが多いとはいえ、この人数でウロウロしていては目立ちすぎる。どこで奴らが目にするか分からないのでな、少しでも人を減らしたい。君はドラゴンズリーチで待機していてくれ、いずれまた協力を頼むだろう。今まで助かった、感謝する」
「そうですか…承知しました」


「それと、私は明日から別行動をとる。ソリチュードでは顔を見られたくない連中もいるのでな」
「…いつものことね。それで、私とロードはどうすればいい?」
「お前達は先に二人でソリチュードへ向かってくれ。ロードは帝国兵だからな、一緒に居れば変なちょっかいをかけられることも無いだろう。ドラゴンボーンの噂はソリチュードでも広まっているだろうが、顔までは割れていないはずだ。念のため、お前がドラゴンボーンということは隠してくれ。何者かと聞かれたらロードの恋人とでも言えばいい」
「分かったわ」
「ルーシス。俺は彼女と一緒に居るだけでいいのか? 他に何かすることは…」
「何もしなくていい。メルを守ってくれ。必要があれば追って連絡する。以上だ」
ルーシスはそう言ってまた宿屋を出て行った。

宿を出てリディアを見送る。


「従士様。私はドラゴンズリーチに戻ります。どうか、ご無事で…。幸運をお祈りしています」
「リディア。今まで本当にありがとうございました、あなたもお元気で」


去って行くリディアの後姿が見えなくなるまで見送った。
「…メルヴィナ」


「?」
宿へ戻ろうとしたところをロードが止めた。
「まだ寝るには早い時間だ。少し散歩しないか? 疲れてるなら、無理にとは言わないが…」
「構いませんよ。行きましょうか」


枯れた大木まで歩いてきた。
「この木…花は咲くのでしょうか」
「ギルダーグリーンっていう木なんだ。俺の知る限りじゃ、ずっと枯れたままで花を咲かせたところを見たことが無いな」
「そうなのですか。残念ですね」
「キナレス聖堂の聖職者が嘆いているのを見たなあ…。今度時間が出来たら話を聞いてみるか」
「これだけの巨木、花を咲かせたら綺麗でしょうね。一度見てみたいものです」
ロードが振り向いて私を見つめる。
「…やっぱり、感情が無いんだな。再会してから、一度も笑顔を見ていない」
「そうですね。笑うという感情が、沸いてきませんので…」
ロードもルーシスと同じ、悲しそうな表情をしている。
「…そこのベンチに座ろう」


「そうだ、一つ聞きたいことがあったんだ。記憶が戻ったのなら、君が国境近くで捕らえられた理由も思い出したか?」
「ええ。ヘルゲンを通って、ソリチュードへ行こうとしていたのです。その途中、記憶を失ってしまいました。グレイビアードは、ドラゴンボーンに覚醒した衝撃だったのだろうと話していました。突然記憶喪失になり、訳も分からずウロウロしていたところを怪しまれ、帝国軍に捕らわれたというわけです」
「そうだったのか。ソリチュードね…俺はてっきり国境を越えてシロディールのアルケイン大学へ行くつもりだったのかと思ってたよ」
「どうしてアルケイン大学だと?」
「君と出会ったとき、大学のローブを着ていただろう? ウィンターホールドに行くには方向が違うから、国境を越えようとしていたのかと…」
「ああ、そういうことですか。ごめんなさい、深い意味は無いのです。ソリチュードへ寄って、そのままウィンターホールド大学へ行こうと考えていたので」
「なるほど。ソリチュードへは何をしに?」
「…ここで話しておきましょうか。あなたに聞いて欲しい事ですから」
「なんだ? かしこまって…」

「ソリチュードで毎年開かれているオラフ王の焚刑祭は知っていますよね?」
「…ああ」
「初めてルーシスに連れられて行ったのは7年ほど前でしょうか。ちょうど祭の前夜でした。ルーシスと夜の散歩をしながら、ふとどこからか聴こえてくる音色に引かれ、大学まで足を運んだのです」

「私はそこで生まれて初めて、音楽というものを耳にしました。とても心が震えたことを今でも憶えています」


「祭の前の練習でしょうか。その人は月明かりの下、一人でリュートを奏でていました。とても心地良さそうに…。私は彼の演奏が終わってもそこを離れることが出来なかった。ルーシスが急かすまで、ずっとその場所に立ち尽くしてしまって。そんな私に気付いたのか、彼はフードを取って頭を下げた後、微笑んでくれました」
「……」
「けれど祭当日に彼は現れなかった。それ以来私はルーシスにお願いして毎年、祭の季節にはソリチュードへ連れて行ってもらいました。もう一度あの演奏が聴きたくて…」


「ロード。あの人が…あなただったのですね。月明かりの下、ただ一度見たあなたの姿を、私はずっと忘れませんでした。残念ながら記憶喪失になっていましたが…」


「…そうか。君はあのときの…」
「今年こそはあなたを見つけたい一心で、初めて一人でソリチュードへ行こうと決心してハイ・フロスガーを飛び出し…あとはご存知の通り。探しても見つからないわけです、あなたが帝国兵になっているとは思いもしませんでした…。あれほどの腕前で楽器を嗜んでいたのなら、吟遊詩人を目指していたのでしょう? 何故帝国軍へ入ったのですか?」
「…敵わないな」
「言いたくなければ無理には聞きません」
「いや、話すよ。いい機会だ…」


それから彼はゆっくりと、自分の気持ちを整理するかのように話した。
約十年前に吟遊詩人になることを目指して、シロディールからスカイリムのソリチュードまでやってきたこと。そこで知り合った女性と恋に落ちたこと。
7年前のあの祭の日の朝、ドラゴンブリッジまで彼女を迎えに行き、ソリチュードへ行く途中山賊に襲われ目の前で彼女が殺された。通りかかった帝国兵に助けられ、彼だけが生き延びて…。

「…それで、あなたは帝国軍へ入ったのですね」
「そうだ。彼女を助けられなかった、力の無い自分がどうしようもなく憎かった。復讐心だろうな、強くなって山賊を根絶やしにしてやろうと躍起になっていた。…音楽なんて、こんなとき何の役にも立たない。この世界では力が全てなんだ、と…。だから…その日以来楽器には触れていない」
「あなたが異常なほど山賊や盗賊を憎んでいる理由が分かりました。話しづらいことを聞いてしまって、すみません」
「いいんだ。前にも言ったろう?時は十分に過ぎている、彼女にいつまでも囚われている俺の心が弱いんだ…」
彼はそれ以上何も言わなかった。
「ロード。宿へ戻りましょう…」
「ああ、そうだな…。メルヴィナ、こんな話をしておいてなんだけど、君が気にすることはない。俺も…顔に出さないようにする」
「…分かりました。私が変に気を遣っては、あなたが余計に辛い思いをしてしまいますから…。明日から、いつも通り…よろしくお願いしますね」
「ありがとう。そうしてくれると、助かるよ…」

沈み込んだ彼の姿を見て、それ以上なんと声を掛ければいいのか分からなかった。


 

3
TOPへ