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19話 – 闇に眠る刀剣(2)

  • 2016.01.06
  • 更新日:2018.10.08
  • RP日記

 

ハイ・フロスガーに到着した。
祈りを捧げているアーンゲールに声を掛ける。


「アーンゲール師。ただいま戻りました」
角笛を手渡す。
「ほう! ユルゲン・ウィンドコーラーの角笛を手に入れたか。よくやった。これですべての試練に合格だ」
「良かったな、メル」
ルーシスと目を合わせ笑う。
「私と来い。お前をドラゴンボーンとして正式に認める時が来た」
アーンゲールは立ち上がると広間へ歩いていった。私達も後へ続く。

広間には他のグレイビアード達も集まっていた。
「揺ぎ無き力の最後の言葉を覚える時が来た。”ダー”、”押す”という意味だ。ウルフガー師が”ダー”の力を授けてくれよう」
ウルフガーが床に言葉を映す。私は側に立ち、その言葉を吸収した。
「三つの言葉すべてを合わせて、シャウトはさらに強くなった。慎重に使うように」


「アーンゲール。これでメルの鍛錬は終わりか? 思ったよりあっけないな」
「鍛錬はな。メルヴィナよ、お前と話したいことがある」
「はい」
「お前は記憶を失った、それはドラゴンボーンとして目覚めた衝撃からではないか。我々はそう考えた。今から我らが与える試練に耐えよ。おそらく…心の奥に封じられてしまった記憶も呼び覚まされることだろう。グレイビアードの解き放たれた声を聞いて、耐えられる者は少ない。だが今のお前ならば出来よう」

記憶を、取り戻せる…。やっと、本当の『私』になれる。

「耐えてみせます」
「よろしい。我らの間に立ち、覚悟せよ」

グレイビアード達の声が一体となって、私の身体に叩きつけられる。

「リングラー クロシス サラーン スタンデュール ヴォス ニド バラーン クロヴ プラーン ナウ…」

全身に衝撃が走る。精神が揺さぶられ、意識は波のように、遠くなっては近付いた。

「ナール ツーム ム オファン ニー ヌ ドヴァーキン ナール スレイク ド カーン ナール スレイク ド ショール アールク ナール スレイク ド アトモーラセウス…」

忘れていた記憶が一瞬にして今ある記憶と混ざり合うような、不思議な感覚だった。


――私は…メルヴィナ。私は……。

(待って…置いていかないで…)

儀式は終わった。
「メルヴィナよ。グレイビアードの声を試し、無傷で通った。…問題はないか?」
「…はい。アーンゲール師よ、御久し振りです…と言うのも変でしょうか。無事に済みました、感謝いたします」
「どうやら記憶を取り戻したようだな」
「ええ。これで…ようやく私は自分を取り戻せた気がします。そして、試練に耐えたことで私はドラゴンボーンとして正式に認められたということですね? 更なる鍛錬を続けていきたいと思います」
「お前は短期間で多くを学んできた。だが、その力の成長を急ぐのは危険だぞ。分かっているな?」
「勿論です」

グレイビアード達が広間から去り、私達三人が残された。
「メル、よくやった。…私のことが分かるか?」
「ええ、ルーシス。心配させてごめんなさい。もう大丈夫…うっ」


「どうした、メル!?」
「従士様!」
「…っあ…」

記憶は確かに戻った。それなのに…。


「……」

「――従士様、大丈夫でしょうか…」
「身体のほうは問題ないだろう。昨日の晩から静かに眠っているしな。記憶が一度に戻って、頭が処理しきれなくなったのかも知れん」

二人の声で目が覚めた。
「おはよう、メル。気分はどうだ?」
「おはよう、ルーシス。なんともないわ」
「そうか、それなら良い」
「従士様。私のことは覚えていらっしゃいますよね…?」
リディアが心配そうにこちらを見る。
「ええ、リディア。ちゃんと覚えていますよ。心配をかけてごめんなさい」

朝食を終え、昼までにはイヴァルステッドに着きたいとルーシスが話す。
「イヴァルステッドから馬車に乗って、リバーウッドに行こう」
「そうね。デルフィンも戻っているでしょうし、早いほうがいいわね」
そんな会話をしていると、リディアがじっと私を見た。
「リディア? どうかしましたか」
「いえ。従士様がくだけた話し方をなさるのをはじめて見ましたので、少し違和感が…」
「そうですか? ああ、確かに…。ルーシスだけには昔からこのように話していましたので。おかしいですか?」
「いえ」
「メル。もしもリディアがおかしいと言ったらどうするのだ。口調を変えるのか? 私は嫌だぞ」
「そう? ルーシス”さん”。ルーシス様? それともルーシス師のほうがいいかしら」
「ブッ…。や、やめてくれ…」
ルーシスは笑いをこらえている。
「…」


「…メル?」
ルーシスが私を見て真顔に戻った。
「…どうした?」
「あ…。私、笑っていなかった?」
二人が静かに首を振る。
「…朝からずっと表情が変わらないとは思っていたが、お前もしかして…。記憶が戻ったのに…なんてことだ」

記憶と引き換えに、感情が欠如してしまったのだとそのとき初めて気付いた。


 

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