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16話 – 創始者の角笛(3)

  • 2015.12.05
  • 更新日:2018.10.08
  • RP日記

 


翌朝、私達は湿地帯を通ってウステングラブに向けて出発した。


ルーシスが先に進みながら話す。
「この湿地を抜けてすぐにウステングラブはあるらしい。昨日ばあさんに教えてもらった」
「え? ルーシス、場所は分かると言ってませんでしたか?」
「方角はな。具体的な位置までは知らなかった」
「そうなんですか。首長とは、どういうお知り合いなのですか?」
「任務の関係で各地の首長とは顔見知りなのだ。おっと、どんな任務かは聞くなよ。その中でもイドグロッドはホワイトランのバルグルーフと並んで、話の分かる首長だな」
「ルーシス殿、一つお聞きしていいですか? 貴方、おいくつなんですか」
リディアが質問する。
「忘れた、あまり年齢のことを考えたことがない。まあ、少なくとも50年以上は生きているか。私はブレトンだが、エルフの血が濃いのかもしれんな」
ただし背は伸びなかった、と付け足すルーシスにリディアも苦笑した。
「それで、昨日首長と住民が揉めていた原因は掴めたのか?」
今度はロードが質問した。
「首長が招いたウィザードに対して、住民は不満があるそうだ。その者は秩序を乱す存在と決め付け、何か企んでいるのではないかと。要は説明不足なのだろう、お互いにな。…それともう一つ。宿屋の近くに焼け落ちた家があったのを見たか? その家の主が放火した犯人ではないかとの噂がある。首長は真相を知りたがっていた」
「モーサルにも色々あるんだな。その放火の件はどうする?」
「どのみちもう一度モーサルには戻るんだ。住民も不安がっているらしいから、調べてみるか」

話をしているうちにウステングラブに到着した。


入り口の手前に山賊の死体があったが、特に気にも留めず遺跡の中に入った。

遺跡内部にも転々と山賊が倒れている。
「やけに山賊の死体が多いな。強敵が潜んでいるのだろうか。それとも仲間割れでもしたか…」
ロードが一瞥して呟いた。


しばらく進み、下を見ると声の壁があった。
「声の壁か。行ってみよう、メル」


前と同じく、壁に書かれた言葉の一つが光を発している。
近づくと、光の流れが自分の身体の中に入ってくるのを感じた。

”Feim”

言葉は頭の中に響く。「霊体化」――その言葉がどんな意味を持つのかも分かった。
だが、やはり声に出そうとしても出ない。

「どうした?」
「何故でしょう…声に、出せないのです。シャウトは修得したはずなのに…」


「それは、まだその時ではないということなのだろう。気にするな」
「いつになればその時はくるのでしょうか…? 初めは言葉を覚えてすぐに”声”を使えました。私が未熟だから、言葉を知っても”声”には出せないのでしょうか」
「焦るな、メル。角笛を取ってハイ・フロスガーへ戻り、アーンゲールに聞けばその理由も分かるだろう」
「はい…ごめんなさい。私、少しでも早くドラゴンボーンとして成長したくて…」
「気持ちは分かるが、ドラゴンボーンの力を早く示せとは誰も思っていない。お前のペースでやればいいのだ」
「はい…」
ルーシスはそう言ってくれたが、自分はシャウトを使えないことに焦りともどかしさを感じていた。


さらに奥へ進むと、石が三つ並んでいた。
「なんでしょうね、これ。仕掛けなのは間違いないでしょうけど」
石の一つに近づくと、赤く光ると同時に奥の鉄格子が上がった。石の光は少し経つと消え、鉄格子も下がる。
「不思議だな。この石はメルヴィナにしか反応しないようだ」
ロードが言う。確かに、他の三人が近づいても石は光らなかった。
「石の数は三つ、鉄格子の数も同じ。この三つの石をほぼ同時に光らせて、鉄格子が上がっているうちに進まないといけませんね」
「だが光はすぐに消えてしまうぞ。走ったんじゃとても間に合わないな」
「ええ…」
ハイ・フロスガーでアーンゲールに言われた言葉を思い出した。
――声の道を進め。さすれば道は開かれよう。
「ああ…。師よ、このことだったのですね」

助走をつけて石を走り抜ける。最後の石が赤く光るのを確認して、すぐに旋風のシャウトを使った。

「Wuld!」

体は風のごとき速さで鉄格子を通り抜ける。私が最後の鉄格子を抜けると、三枚の鉄格子は不思議と上がったままになった。
「やったな、メルヴィナ!」
ロード達が後を追ってきた。ようやく一つ、自分のシャウトが役に立ったのだ。そう思うと笑みがこぼれた。

遺跡の深部。薄暗い中を進むと、通路の両側から大きな像が音を立ててせり出してきた。


「凄いな…どういう仕掛けなのだろう」
「こんな光景は生まれて初めてです。圧巻ですね…」
ロードとリディアが像を見上げながら驚いている。


しかし祭壇の上にあるはずの角笛はなく、代わりに置手紙があった。


”ドラゴンボーン――
話をする必要がある。緊急だ。
リバーウッドにある宿屋「スリーピング・ジャイアント」の屋根裏部屋を借りてくれ。そこで会おう。
――友より”

置手紙にはそう書かれていた。
「何のために角笛を…。一体誰が…」


「角笛を盗んだ犯人はそれが目当てではなく、ドラゴンボーン…メルと会うことを目的としているようだな」
ルーシスが言う。
「だとしても随分と回りくどいことをする奴がいるもんだ。直接ハイ・フロスガーに出向いたほうが手っ取り早くないか?」
「メルが確実にここへ来ることを知っていたのだろう。その情報収集力はたいしたものだ」
「褒めてどうする。とにかく、リバーウッドへ行ってその緊急の話とやらを聞かなければな」


遺跡を出るとあたりは既に暗くなっていた。
帰り道を歩く全員が言葉少なく、徒労感のある遺跡探索だったという思いが伝わってきた。
モーサルへ着き、早々に宿へ入って休むことにした。

リディアは鬱憤が溜まっていたのか、今夜はひどく飲んでいる。ルーシスは食事が終わると、朝話していた焼け落ちた家の調査をすると言い残して宿を出た。
「やってられないわよね、本当。角笛がなかったときの、従士様の残念そうな表情を思い出すと…うう」
「そのくらいにしろよ。今回はメルヴィナがシャウトを一つ修得できたんだ。それでよしとするしかないだろう」
「リバーウッドに行ったら犯人を〆るわ…」
「…目が据わってるぞ、大丈夫か。メルヴィナ、君はこんな風になるなよ」
二人のやり取りを笑いながら見ていたら、疲れもなんだか無くなるような気がする。

「ところでロード。一旦ソリチュードへ戻ったほうがいいんじゃない? 従士様の護衛をすることはあなたの独断で、軍には報告していないのでしょう?」
リディアがロードに尋ねる。
「そういえば、バルグルーフ首長に言ったきりだった。ここからソリチュードは近いし、ちょっと行って来るかな」
「従士様のことは、私とルーシス殿が責任を持ってリバーウッドにお連れするので安心しなさい」
「頼む。メルヴィナ、気をつけて行くんだぞ」
「…はい。ロードもお気をつけて」
――明日、彼と別れる。何故だか言いようのない寂しさに襲われた。

部屋へ戻ろうと席を立ったところへ、男性が近寄ってきた。
「なあ、あんた達。さっき少し話が聞こえてきたんだが、ソリチュードに用があるのか?」


「ああ。ソリチュードへ行くのは俺だけだが、それが何か?」
「申し遅れた。俺はゴルム、首長の私兵だ。ソリチュードへ行くのなら少し頼まれごとをしてもらいたいのだが…」
「なんだ?」
ゴルムは、最近の首長が以前と比べて様子がおかしくなったと心情を吐露した。
「――そこで、この手紙をソリチュードにいるアルディス隊長に届けてもらいたいんだ。俺はイドグロッドのそばを離れるわけにはいかないんでな」
「そうか、分かった。アルディス隊長のことはよく知っている。俺が責任を持って届けよう」
「ありがとう、頼む。個人的なことだから、何が書いてあるのかは見ないでくれよ」
「それは勿論」
ゴルムはロードに手紙を渡し、礼をして宿屋を出て行った。
「…何か企んでいるのかしらね」
リディアが腕組をしながら呟く。
「さあな。だがアルディス隊長なら、何かあっても間違いを正してくれることだろう」
「そうだといいけど」
リディアはそう言って部屋に行った。

「さてと、俺達も休もうか」
離れてしまう前に、心に引っかかっていたことをどうしても聞いておきたかった。
「ロード、あの…」


「ん?」
「少しだけ、外を歩きませんか…?」
「どうした、酔ったのか?」
「いえ…お話がしたくて。駄目ですか?」
「いや、構わない。それじゃあ、行こうか」


夜も更けて、巡回する衛兵以外に人の姿はなかった。水車の音が静かに聞こえる。


「しかし、初めてだな」
「?」
「君から夜の散歩に誘われるとは思わなかったよ」
「…明日、あなたとお別れだと思ったら、もう少しお話がしたくて…。疲れているのに連れ出してしまってごめんなさい」

本当に、訊いていいものかどうか。直前まで逡巡した。
「あの…。一つだけ、気になっていたことがありまして…。ホワイトランの宿屋であなたの様子が少し変わってしまったように感じて…。何かあったのですか?」
「……」
「あ、ごめんなさい。私の思い過ごしならいいのです、忘れてください」


「…ずっと、気にしてたのか? そんなこと…」
「…はい。あなたが、時折酷く辛そうな表情をしていましたから。私が何か言ってしまったのではないかと…」
「君のせいじゃない。すまない、そんなに顔に出てたか…」
彼はじっと川を見ながら、やがてぽつりぽつりと話し始めた。

「バナード・メアで、君が俺に『あなたはいつも、私が困っているときに助けてくれるので、安心してしまう』…そう言った事、覚えてるか?」
「え? はい…確かに言いました」
「昔…死んだ恋人に、全く同じ事を言われたんだ。それが、君と重なって…。忘れかけていた記憶が戻ってしまった…」
「それで…」
「しばらく、その事が頭から離れなくてな…。君が気にしているとは思わなかったよ。ごめんな」
「いいえ。私の言葉がきっかけで辛い過去を思い出させてしまったのでしょう? ごめんなさい…」
「違う。俺が…」
振り向いた彼は、悲しさを押し殺したような、寂しそうな表情を浮かべていた。
「もう何年も前のことだ。いつまでも引きずってる俺が、女々しいんだよ」
「何と言えばいいか…。あなたは、その人をとても大切に思っているのですね。今もずっと…」
「そう…だな。ただ、今でも彼女を愛しているというよりは…死なせてしまった罪悪感があるのだろうな。だから…」


「――吹っ切ることが出来ない。きっと、どれだけ時間をかけても…」

そう言って切なそうに目を伏せる彼の横顔を見て、胸が痛んだ。


 

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