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14話 – 創始者の角笛(1)

  • 2015.11.19
  • 更新日:2018.10.08
  • RP日記

 

次の朝、私達はイヴァルステッドを出発してホワイトランへ向かうことになった。
ルーシスはまたいつの間にか装備が変わっている。
「ルーシスは頻繁に装備を変えるのですね」
「ああ、おしゃれするのが好きなのだ。メルも色々着替えるといい、気分も切り替わるしな」
「そうですね」
「ロード達もそろそろ装備を変えたらどうだ。ずっと鋼の鎧なのも退屈じゃないか?」
「いや、まだそんなに長く着用しているわけじゃないが…そう言われると少し強度が落ちてきたな。ホワイトランで防具を見てみるか」
「私も剣の鍛えなおしに鍛冶屋に行こうかしら」

しばらく川沿いに山を下りていると、途中でルーシスが止めた。


「ちょっと待った。ここから川を渡って向こうの道を進もう。ホワイトランへの近道だ」
「ここを渡るのですか? 少々流れが速いので危険ですね…」
リディアが躊躇している。
「問題でも?」
「いえ、私は構いませんが…」
彼女はそう言ってちらりと私を見た。
「あ、私なら大丈夫です。渡りましょう」
そう言いつつも恐る恐る川に入ろうとしたときだった。
ロードが先に川の中へ進んで、手を伸ばした。


「メルヴィナ、手を」
「え?」
「岩の上は滑りやすいからな、慎重に渡ろう。大丈夫、何かあっても俺がしっかり支えるから」
「すみません、ありがとうございます」


ロードの手を掴みながら足を進める。彼の手が支えになって、バランスを崩すこともなく何とか岩の上をゆっくりと進んで川を渡った。
「ロード、ありがとうございます」
「いや。…大袈裟だったかな?」
「とんでもない。あなたの支えのおかげで滑る心配もありませんでした」
「それなら良かった。…あとの二人は、なんとかなるか」
ルーシスとリディアは難なく川を渡ってきた。ロードも軽く川を渡れたはずなのに、わざわざ自分のためにゆっくりと進んでくれた優しさに、感謝と申し訳なさが混在した。


「それにしても…イヴァルステッドからホワイトランへ通じるこんな道があるなんて知りませんでした」
リディアがルーシスに話す。
「なかば獣道だろう? 足場もそれほど整っていない。だがこの道が意外と便利なのだ。他のルートでは大回りになってしまうしな。このあたりに出没するのは狼くらいだから、それも安心だ。今日は霞んでしまっているが眺めも良いのだぞ」


「このペースだと夕刻前にはホワイトランに着けそうだな。宿をとって、明日の朝モーサルへ向かおうか」
「ええ、早めに着いたら買出しもしておきたいですね」
「ああ。…そうだ、メル。ロードのことをどう思う?」
「えっ? 何ですか急に。彼は強くて頼りになりますし、優しくてとてもいい人だと思っていますよ」
「そうか、ならいい。私もあいつのことを気に入っている」
「…おい。聞こえてるぞ…」
背後から照れくさそうなロードの声と、それを聞いて笑うリディアの声が聞こえた。


ホワイトランへ到着すると、小雨が降りだした。
「雨か…。メルは先に宿へ行って休んでいろ。買出しは私が済ませておく」
ルーシスはそう言って一人で歩いて行ってしまった。
「ロードとリディアは武器と防具を見るのでしたよね。では、先に宿に行って部屋を取っておきますね」
皆と別れ、一人先に宿屋バナード・メアへ入った。

「あら、いらっしゃい。今日はどうされますか?」
宿屋へ入ると、フルダが笑顔で出迎えてくれた。顔を覚えていてくれたようだ。
人数分の部屋を取り、雨の音を聞きながら皆が戻ってくるまで暖炉の近くで身体を温めていた。

「お一人ですか?」


突然肩に触れられ驚いて振り向くと、男性が隣に腰をおろし話しかけてきた。
「貴女は旅人ですね? これほどの美しい女性がホワイトランにいれば見過ごすはずはありませんから…」
「え? あの…」
「吟遊詩人のミカエルと申します。ホワイトランにはどちらからいらっしゃったのですか?」
「ええと…イヴァルステッドです」
「ほう。それは遠いところから、さぞお疲れでしょう。そんな貴女に私の歌を一曲捧げたいのですがいかがでしょう? 疲れも取れるかと」
私の顔を覗き込むようにまじまじと見つめるこの男性を、困惑しながら見返す。
「あの、お気持ちは嬉しいのですが…」
「いえいえ、どうか遠慮なさらず」

「そこまでだ」


ロードが背後からミカエルの腕を掴む。
「口説きたいなら他をあたってくれ」
「っ? 何だ、君は。失礼じゃないか、私は彼女と話を…」


「…この腕、切り落とされたいか?」
「ひっ!? わ、分かったよ。もう彼女に手は出さないから、離してくれ!」
ミカエルは慌てて席を外した。それでも宿を出て行かずにすぐそばのカウンターに座って、様子を見ていたフルダに窘められている。

ミカエルの立った後にロードが座った。
「まったく、早めに切り上げて来て良かったよ。言っただろ、警戒心を持てと…。あの男はホワイトランじゃ女たらしで有名なんだ」


「女たらし…ですか。ごめんなさい…彼、凄く押しが強くて。お断りする間が…」
「それが危険なんだよ。ああいう男にはもっと気丈に振舞わなきゃ駄目だ」
「…けれど、あなたが来てくれましたから」
「え?」


「あなたはいつも、私が困っているときに助けてくれますから…どこか安心してしまって」


「……」
「ロード? どうかしましたか? …あ、ごめんなさい。あなたに頼りっきりでは駄目ですよね」
そう言うと、表情の固まっていたロードは目を逸らして俯きながら答えた。
「いや、いいんだ…。俺はそのためにいるんだから…」

やがてリディアとルーシスが用を済ませて戻ってきた。
全員で食事をとったあと、ロードは寝ると言ってすぐに部屋へ行ってしまった。
「あら? いつも一杯は飲んでいる彼がもう休むなんて珍しいですね…」
蜂蜜酒を嗜みながらリディアがルーシスと話す。
「そういう時もあるだろう。明日も早いのだ、君も早めに休めよ」
二人が話す横で、部屋に入っていくロードを見つめた。

彼の様子が変わってしまったことには気付いていた。
その原因が自分にあるかもしれない。けれど何も聞けなかった。
平静を装っていても、ふとした瞬間に見せる辛さを我慢するかのような表情を見てしまったら、何も聞けなかった。


 

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