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10話 – 声の道(4)

  • 2015.10.26
  • 更新日:2018.10.08
  • RP日記

 


早朝、リディアと別れ三人でハイ・フロスガーへ向けて出発する。
ロードは鋼の鎧ではさすがに寒いかもしれないと言って、暖かそうな服に着替えていた。
「ルーシス、今朝は宿屋で随分と食料を買い込んでましたね。干し魚や干し肉を」
「グレイビアードは引きこもりだからな。昔は村のクリメクが頻繁に食料を奉納してくれていたのだが、最近は足が思うように動かないそうなので私がこうして買出しを兼ねているのだ。お前もよく付いてきたのだぞ」
「私がこの七千階段を頻繁に上り下りしていたなんて信じられません…」
「上りはきつかったのか、おんぶしてと泣いていたな」
「そうなのですか…。ルーシスは私が幼少の頃から側にいてくれたのですか?」
「ああ。お前は…シロディールの帝都で一人ぼっちで泣いていた。それを見かねた私が連れ出してしまったのだ。一応言っておくが、誘拐ではないぞ。迷子かと散々親を捜したが、とうとう見つからなかったのだ」
「そう…ですか」
「拾われた子だと知ってショックか?」
「いえ…。記憶がないからか、他人事のように感じてしまって。幼少から普通ではなかったのですね…」


「ということは、ルーシスはメルヴィナと出会う前からハイ・フロスガーにいたのか」
ロードが尋ねた。
「少し違うな。メルを拾った足でハイ・フロスガーに向かったのだ」
「帝都からだろう? 何故ここへ来ようと?」
「古い書物を読んで、声の道に興味を持ってな。シャウトの一つくらいは習得してやる、と勇んでいたわけだ」
「それで習得は出来たのか?」
「十年かかってようやく揺るぎなき力のシャウト一つだ。それで満足してしまって修行はそこで打ち切ってしまった。今じゃ、グレイビアードの世話係のようなことをしている」
「へえ、凄いじゃないか。修行をすれば誰でも習得できるものなのか?」
「おそらくは。時間と熱意が必要だけどな。お前も修行してみるか? ロード」
「いや、俺はこの剣があればいいよ。大変そうだ」


「随分上ってきましたね」
「メルヴィナ、疲れてないか?」
「いえ、意外と大丈夫そうです。身体はこの階段を上り下りしたことを憶えているのでしょう」
考えてみれば、非力なくせに走ってもあまり疲れを感じないのは、この七千階段のおかげだったのだろうか。

しばらく歩いていると、狼ではない何か白い物体が近づいてきた。


「フロストトロールだ、気をつけろよ!」
ルーシスがいち早く剣を構えた。


「クソッ! こいつしぶといな」
「これは回復力が高い、畳み掛けるように斬れ!」
二人を援護するように炎の魔法を浴びせた。やがてフロストトロールはその場に崩れ落ちた。
「あーあ、酷い返り血だな。大丈夫か? ロード」
「ん…」
左肩を押さえるロードにかすかに苦痛の表情が浮かんだのを見逃さなかった。
「待って、返り血じゃありませんね。すぐに回復魔法を…じっとしていて」
「すまない。あいつの力を舐めてたよ、爪でざっくりやられた」
「鎧じゃないのが痛手だったな、油断するなよ。もうこの先に敵はいないが…」

少し進むとようやくハイ・フロスガーが見えてきた。


中へ入ると、グレイビアードの人達だろう。既に広間に集まっていた。
「戻ったぞ、アーンゲール。メルも無事だ」


「よく戻ってきたな、メルヴィナ。ついにその力に目覚めたのだな。時代の変わり目にドラゴンボーンが現れる、か…」
「あの…私…」
「アーンゲール、彼女は記憶を失っているようだ」
「なんと、そうなのか? メルヴィナよ」
「はい…原因は分かりませんが…」
「残念だったな、アーンゲールおじいちゃん、と呼んでもらえなくて」
「ルーシス、彼女の記憶が無いことをいいことに嘘を教えるでないぞ」
「はいはい」
「メルヴィナよ、これからの話は心して聞くのだぞ。…我々はお前をドラゴンボーンとして召喚した。お前が真に恩恵を授かったのかどうか、お前の声を我らに味わわせて見せよ」
「分かりました」
大きく息を吸い込み、叫んだ。

「Fus!」

アーンゲールに浴びせると、彼はよろめいた。
「…お前がドラゴンボーンだったのだな、メルヴィナ。あらためて、お前を歓迎しよう。ようこそ、ハイ・フロスガーへ」

「師よ、私はこれからどうすればよいのでしょうか…」
「己の運命を遂げるため、恩恵を使うにはどうするべきか。我々が最善を尽くしてお前に教えよう」
「私の運命とは?」
「それはお前が見つけるべきものだ。我らは道は示せるが、目的地は示せない。思えば、ルーシスがお前をここへ連れてきたときから、道は示されていたのだろう」
「アーンゲール。メルは自分が竜の血脈だと知っていたのか?」
「知らなかった。我々には、メルヴィナに内なる恩恵があることが分かっていた、初めからな。だが、然るべき時にそれを学ばせようとしていた」
「私にも黙っていたのは何故だ?」
「お前に話す道理が見つからなかった、それだけのことだ」
「なるほどね」
「さあ、メルヴィナよ。学ぶ準備は出来たか? お前に示された道を進むための自制心と気質が備わっているか確かめよう」


「鍛錬がなくとも、お前は声をスゥーム、シャウトとして放出するための一歩を踏み出している。まずは、お前に修練を受けるための意思と能力があるか見せてもらおう」


私は修練を何の苦労もなく淡々とこなしていった。自分でも不思議なくらいに、まるで息を吸うように声を自然と習得していく。
自分にこのような能力があるなんて…。私はずっと普通の、ただの人間だと思っていた。


「新しいスゥームを習得するお前の速度は…驚くべきものがあるな。ドラゴンボーンの能力については耳にしていたが、ここまでとは」
「何故私にこのようなことが出来るのか分かりません…」
「理由があって神々より恩恵を授かったのだ。どう扱うかは、お前次第だ。さて、最後の試練だ。ウステングラブの古き霊廟にある我らの始祖の墓から、ユルゲン・ウィンドコーラーの角笛を取って来い。声の道を正しく進め、さすれば戻れよう」
「…分かりました。あの…ドラゴンボーンとは、どういう意味なのでしょう」
「ドラゴンは声について学び、それを放出する内なる力を持っている。そして、討たれた同族の力を吸収できる」
「同族…」
「定命の者にも似た力を持つ者が生まれる。それが恩恵なのか呪いなのかは、数世紀に渡る議論の的であったがな。我々で最高の者が数年を掛けて修得したものを、お前はほんの数日間で覚えてしまった。そして、ドラゴンボーンは危機の時代に神々より遣わされたのだと信じる者もいる。この事は、お前が聞くべき時に話すとしよう」
「ドラゴンたちが復活しているのは、自分に関係があるのでしょうか?」
「そうだろうな。この時にドラゴンボーンが現れたのは単なる偶然ではない。ドラゴン達の帰還とお前の運命が結びついているのは間違いないだろう。己の声を鍛えることに集中せよ。さすれば道は次第に明らかとなるであろう」
「ありがとうございます、師よ。鍛錬を続けます」
「よろしい。ならばこの先に待つものにも耐えられるだろう」

山登りと初めてのことで気が張っていたのか、疲れて食事が喉を通らなかった。
「メル、ちょっと来てみな」


「どうかしましたか?」
「ここ、よく二人でおしゃべりしてた場所なんだけど…憶えていないか? ほら、そこの本棚の本もお前は全て読んでしまって、私に新しい本はないかとせがんだだろう?」
「あいにくですが、本当に何も…」
「うむ、分かってるのだ。だが、少しでも何かのきっかけで思い出せるかもしれないだろう?」
「そうですね…。あ、では本棚の本を読んでみますね。ひょっとしたら何か思い出せるかもしれません…」
「それがいい。好きなだけ読んで、眠くなったら休めばいい。こう言ってはいるけど、無理はするなよ」
「はい」

疲れもあってか、一冊目を読み出して数ページ進んだ頃にはもう瞼が閉じてしまっていた。


 

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