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53話 – ブラックリーチ(4)

  • 2017.10.21
  • 更新日:2018.10.08
  • RP日記

 


少しの時間彼らにも仮眠を取ってもらい、疲れが取れたところで再び出発した。

千里眼を使いながらムザークの塔までの道筋を辿る。
「点々とセンチュリオンが設置された場所は見かけたが、刺激をしなければ作動しないようだ。残りはファルメル程度しかいない、慎重に進もう」
ルーシスが偵察で得た情報を話す。
「大物はあのドワーフ・ドラゴンくらいだったみたいだな。良かったよ」
ロードは時折後ろを振り返り、確認しながら歩いている。
ドラゴンの鳴動で気付かなかったが、改めて周囲に耳を澄ますと随分と静かだ。
どこかで流れる水の音と、かすかに鈴のような高い音が鳴っている。
「そういえば、さっき休んでいたあの家…変わった色のニルンルートがありましたね」
ロードに尋ねる。
「クリムゾン・ニルンルートと呼ぶそうだ。あの家に住んでいた錬金術師は、今から150年ほど前にそれを専門に研究していたようだな。亡骸があった」
「え…」
「あ…勿論亡骸は丁重に葬っておいたよ。家を使わせてもらったんだからな」
「そうですか…。けれど、ブラックリーチに来てまでニルンルートの研究をしていたなんて、とても熱意があったのでしょうね。もしかしたら、志半ばで倒れてしまったのでしょうか…」
「だろうな。残された日記を読んだ感じでは、クリムゾン・ニルンルートを集めて地上に持ち帰りたかったようだ」
「そう……」
考え込む私の顔を見て、ルーシスが釘を刺す。
「メル、代わりに私達でそれを集めましょう、なんて言うなよ。植物収集は専門外だ。それに、探すとなると時間も人手も必要だぞ」
「ええ、分かってます。けれど、このままで済ますのも心苦しいから…。落ち着いたら錬金術専門の人にでもこの話を持ちかけてみましょう」
「そうだな、それがいい」


しばらく進むと、ブラックリーチの中でも一際目立つ大きな建物に行き当たった。
太陽を模しているのだろうか、巨大な球が建物を照らしている。
「あれがムザークの塔かしら」
千里眼の道筋は建物の中へと続いている。進もうとしたところをルーシスが遮った。
「待て、メル。…あの建物を塔と呼ぶには違和感がないか?」
「確かに…。塔というより、城と呼んだ方がしっくりくる外観だけど…」
「私の勘だが、ああいった物々しい雰囲気の場所にはセンチュリオンがいるだろうな。耳を澄ましてみろ」
ルーシスの言うとおり、耳を澄ますと、微かだが蒸気の吹き出すような音が聞こえてきた。


しばし様子を見ていると、建物内に明らかにそれと分かる物体が確認できた。
「…いるわね。ひとまず建物の外を大回りしてみて、目的地がここではないか確かめましょう」
センチュリオンに気配を察知されないよう静かにそこを離れた。
建物の内部に向かっていた千里眼の道筋も、しばらく歩くことで別の方向を指し示した。
「やはりここは違ったようですね」

暗闇の中にぼんやりとムザークの塔らしき建物が見えてきた。
外部には何者かがいる気配もない。慎重に中へ入る。


「これが…セプティマスの話していた空のドームね」
天井を眺めながら上がる。


操作盤のような物がある。
「これを操作して、ドームの仕掛けを作動させると…星霜の書が手に入る、ということかしら」
「だな。メル、この台座には何か置けそうだぞ」
ルーシスが端にある台座を指差した。
「そのようね。セプティマスに渡されたこれを置いてみましょう」
キューブは台座にぴたりとはまった。

「スイッチのようなものが四つ。二つは塞がれている。…試しに一番右のスイッチを押してみましょう」
「…慎重にな。何か罠がないことを祈ろう」
押してみるが反応はない。続いて、その隣のスイッチを押してみた。


大きな音を立ててドームの装置が動き出す。
「…驚いた。このドーム全体が大きく動くのね」
「下に居たら危なかったな」
大仕掛けを眺めながらロードが呟いた。
何度かスイッチを続けて押してみると、左側の塞がれていたスイッチが押せるようになった。
「右側のスイッチから順に押していくということかしら…。随分と簡単な操作にも思えるけど…」
「ドゥーマー自身が操作していたものだろうからな。罠を仕掛ける必要も無かったのかもしれない」
スイッチを押す毎に形を変えていくドームの仕掛けを三人で眺めた。


最後のスイッチを押すと、仕掛けが開いた。
中に何かが置かれている。
「あれが…星霜の書」


その巻物は予想していたよりもずっと大きく、手に取るとずしりとした重みがあった。
「これで…一つ目的が達成されたのね。…行きましょう」


空のドームから続いているリフトで地上に昇った。
「ここはどこかしら…」
とりあえず道なりに下っていくと、砦が見えた。


「山賊の住処かもな。どうする?」
ロードが尋ねる。
「出来ることなら面倒事は避けたいです。砦の脇を通り抜けましょう」
山賊に見つからぬよう、砦の脇にある林に入り通り抜けた。


千里眼の道筋を辿っていく途中に宿屋が見つかった。
「助かったな。暗くなってきたし、まともに休めていないだろう。今夜はここに泊まろう」
ルーシスの言葉に頷いた。


「やあ、いらっしゃい」
「こんばんは。一晩泊めていただきたいのですが…」
「三人かい? 見ての通りここは小さな宿屋でベッドの数が二つしかないんだ。ベッドロールは一応置いてあるが…それでも構わないかい?」
「俺はベッドロールでも椅子でも構わない」
「同じく。休めるだけで十分だ」
自分もベッドロールで、と答えるつもりだったのだが、先を越されてしまった。
「…分かりました。では、一晩お願いします」
「ありがとう。一人分は安くするよ。代わりに食事はたくさん用意するから食べてくれよ」
「ありがとうございます。ところで、一つお尋ねしますが、ここはどの地域なのでしょう?」
店主が不思議そうな顔をした。
「なんだ、あんた達道に迷ったのかい? ここはペイル地方から南に少し外れた場所だよ。ここから北にまっすぐ進むとドーンスターがある」

パンと温かいスープを食べながら、ルーシスと明日の行動について話す。
「ドーンスターが近いなら丁度良かった。ウィンターホールド行きの船が出ているはずだ。それに乗ろう」
「ええ、そうしましょう…」
会話の途中にも関わらずぼんやりと返事をする。
「どうした、メル。心ここにあらずという感じだぞ」
ルーシスが心配そうに見た。


「…ううん。なんでもないの。ごめんなさい、少し…眠くて」
「…あんなことがあったのだ。身体がまだびっくりしているのかもな。慣らしていけば良い、と言うのもおかしいが…。あまり無理に先を急ごうとせず、休みながら行こう」
気遣ってくれるルーシスに頷く。


「ありがとう。自分の身体のことだもの、もっと知らなくちゃ駄目よね。大丈夫、あなた達に迷惑をかけないようにするわ」
「迷惑だとは微塵も思わないが。…そうやって変に気を使うと、また余所余所しいと怒るぞ…誰かさんが」
別のテーブルで食事を取るロードに聞こえないように、小さく笑いかける。そんなルーシスに笑って頷いた。

「スー…スー…」

「…メルヴィナは眠ったのか。ベッドに運ぶか?」
「そうだな、頼む」


「…なあ、ロード」
「なんだ」
「お前は、変わってしまうという不安は無いか…?」
「どうした、急に。…彼女が、ってことか?」
「ああ」


「以前、メルが感情を無くしてしまった事は憶えているだろう。…私は不安でな。この子が目を覚ましたとき、笑って『おはよう』と言ってくれるか…」
「……考え出したらキリがない。彼女を信じるしかないさ」
「…こういうときはお前のほうが気丈だな」
「そうでもないよ。不安が無いと言えば嘘になる。けど、こっちがあからさまにそんな態度を取ったら、却って彼女を不安にさせるだろう?」
「そうだな。私達がこの子を守ってやらないとな…」
「ああ」
「すまん。たまにはこうやって弱音を吐くことも許してくれ」
「ハハ…少し意外だけど。信頼されてるってことだと受け止めておくよ」


「……彼女の背負っているものは、きっと想像以上に重いだろう。その負担を少しでも軽く出来るのなら、俺は何でもしたいと思う」


 

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