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52話 – ブラックリーチ(3)

  • 2017.09.10
  • 更新日:2018.10.08
  • RP日記

 

真っ直ぐに敵を睨む。

今の”私”では到底敵わない。
けれど、私の中に秘められた力が大切な人を守るために必要ならば。
私は変わることを厭わない。だから……。
私は自分の中に眠る潜在意識に呼び掛けた。

じっと私を見据えていたオートマトンが炎を噴射した。


「メルヴィナ!」
ロード達が叫ぶなか、私は炎を身体に受けても平然としていた。

その炎がきっかけとなり、私の心臓は急激に高鳴った。
まるで初めてドラゴンの魂をこの身体に取り込んだあの夜のように。
全身の血が高速で体内を巡る。


燃えるように熱い炎が身体を包む。
だがこの熱さが何故か心地良い。

「……!」

「メル、お前…」

「……」
自分の姿を確認することは出来ずとも、膝を付きながらこちらを見上げる二人を見れば分かる。
私は確かにドラゴンになっていた。

「この感覚…懐かしくもあるな」
私は二人を見下ろしたあと、目の前にいるドワーフ・ドラゴンを見た。
恐れはなかった。


飛び立った敵を追って、同じく羽ばたく。
そうだ、私はこの体をよく知っている。飛び方も、攻撃の仕方も。

こんな紛い物のドラゴンに負けはしない。
今まで抱いたことの無い、言いようのない自信が溢れてくる。
敵を追い詰めファイアブレスを吐けば、それは人間のときとは比べ物にならない威力を持っていた。


敵の噴射する炎をこの身に受けても、生温さを感じる。
「はは、どうした。そんなものは効かぬぞ」
高笑いをしながら片翼に噛み付きパーツを引きちぎると、敵はそのまま地上に落下した。

圧倒的な力の差があった。
弱点を探し出し狙う必要も無く、対象をただ破壊しつくす。
目の前で敵が動かなくなっても、そこには何の感慨も生まれなかった。
「ふむ…。あっけないな」
離れた場所で私の姿を呆然と見つめる二人の姿を見つけた。

(私は彼らを守ることが出来たようだ)

そんな言葉が浮かんだその時。


この体は再び炎に包まれ、意識は徐々に薄れていった。

 

「……ん」


「…メルヴィナ、気付いたか?」
目を覚ました私の顔をロードが覗き込む。
「…ここは?」
「ブラックリーチ内に建っている小さな家だよ。…錬金術師が住んでいたみたいだな」
ロードは部屋を見回しながら答える。
私は石造りのベッドの上に寝かされていた。
「ロード…無事で良かった。ルーシスは…?」
「彼は、他にもドラゴン型のオートマトンがいないか外を確認してくれている。…具合はどうだ? 君はあれを倒すと、そのまま気を失って倒れたんだ」
「私…ドラゴンに、なったのですね…」
途切れ途切れに質問すると、彼は黙って頷いた。


「…元に、人間の姿に戻れたのね」
ゆっくりと自分の手を目の前に掲げ、見つめながら呟く。
「メルヴィナ…。心配する事はないさ、君は何も変わってない」
優しく微笑むロードを見つめ返した。
「…どうやってドラゴンになったのか、どうやって敵を倒したのかさえよく覚えていないのです。ただ、必死で…」
「ありがとう、君のおかげで助かった。けど…本当は、その力を使いたくはなかったんじゃないか?」


「できることなら…そう思ってはいたのですが。結局私はドラゴンの力を借りなければ敵を倒せませんでした。けれど後悔はしていません。こうして、人の姿に戻ることも出来ましたし…何よりあなた達を守ることが出来ました」
ゆっくりとベッドから身体を起こした。

「実際にドラゴンになったことで分かったことがあります」
「…それは、君がドラゴンになっても人の姿に戻れるということ以外で?」
「はっきりと説明は出来ないのですが…ドラゴンの姿になっている間、私であって”私”ではない人格があった。理性を保ちながらも、強い破壊衝動を持っていて…」
「そうなのか。姿を変えることで性格が変わるというよりは別の…」
ロードの言葉に頷き、彼に背を向けた。
「もうひとつの人格、と言ったほうがしっくりくるでしょうか。あれが、本来の”私”なのかもしれません。ドラゴンとしての私。好戦的で、自信に溢れていて…」
ドラゴンに戻ったときの断片的な記憶を話した。

「ロードは、強大な力を手に入れたら、どうしますか? その力を使いたいと思うでしょう?」
「…」
「例えば、アルドゥインと直接対決する時がきたら、迷わず私はドラゴンになる。そのためにも、本当に私はこの力を制御できるのか確かめる必要があります」
「またドラゴンに変身するということか?」
「ええ。この世界を、大切な人を守ることになるのなら何度でも…」
それが、人の心を無くしてしまうことになっても。そう言いかけた唇を閉じた。
「……」
「大丈夫ですよ。こうして元通りに戻れたのですから。大丈夫…」
その言葉はロードに聞かせるというよりも、自分に言い聞かせた言葉のようだった。
「……」
さっきから無言のまま背後にいる彼の表情は分からない。振り向いて確かめるのも少し怖かった。

「…本心では…戸惑っています。私の中に眠る強大な力と、もう一人の自分に…。ドラゴンの力を過信して間違いを起こす前に、独りになるべきなのかと…」
小さな声で本音を漏らす。
「メルヴィナ」
私のすぐ後ろで名前を呼ばれ、振り向くよりも先に背中から腕を回された。


「…俺は、君の支えになれないか?」
「え…?」
「君が極力ドラゴンの力を借りなくても済むように、もっと強くなる。それに、誰かが傍にいることで、心が保たれるかもしれないだろ? ……一人になるなんて言うなよ」
彼の腕の中は、不思議と私の不安や心細さが溶けていくような安堵感がある。
きっと、彼がいれば人の心を失うことは無いだろう。そんな気持ちにさせてくれた。
「…ありがとうございます。あなたは、本当に優しいですね。私の本当の姿を見ても、何も変わっていない…」
「当然だろう。君がその力で守ってくれたんだ。むしろ、俺は自分が恥ずかしいくらいだよ」
「どうして?」
「散々君を守ると言っておいて…だからな」
軽く笑うようにロードは言った。
「そんなこと…。私はずっとあなたに守られていますよ。戦闘時だって、前に出て何度も私を庇ってくれて。こういうときにも…あなたのお陰で心が落ち着くのですから」
「……」

ロードは身体を離すと私の顔を覗き込む。


指先が頬に触れた。手袋越しでも温もりが伝わってくるようだ。
「ロード…」
「正直なところ、不安はあったんだ。ドラゴンになったことで君が変わってしまっていたら…と。でも…そういう表情が出来るのなら…安心かな」
「え?」
「頬が赤い」
私を見つめて柔らかく微笑んだ。


「あ…」
気付けば、顔中が熱を持ったように熱い。
それは、人としての感情がある証拠。
「メルヴィナ…」
確かめるように私の瞳を凝視する彼と、絡まった視線をほどけずに見つめ合う。

「…おい」
声を掛けられて、そこにルーシスが立っていることに初めて気付いた。

「ル、ルーシス。いつから…」
慌てて身体を離す。
「ロードがお前の頬に手を当てたあたりか」
「……っ」
恥ずかしさで全身が熱くなった。
「まったく。偵察から戻ってきてみれば…」
「これは、ロードが私のことを心配してくれて…」
「ふうん」
ルーシスが少し冷めた目で見ると、ロードはばつが悪そうに頭をかいた。

「まあいいか。メルに異常ないことも確認できたからよしとしよう。なかなか楽しませてもらったぞ」
「ルーシス。人が悪いぞ、いるなら声をかけてくれ…」
「物音を立てないのは私の特技だが、お前達の目の前にいたのに気付かないほど二人の世界に入っていたのだろう?」
「……」
「しかし…無骨な戦いぶりからは想像できないほど、メルに対しては繊細な接し方をするのだな。吟遊詩人を目指しただけのことはあって、甘い言葉を囁くのは得意なのか?」
ルーシスが皮肉混じりにそう言って笑うと、ロードは真っ赤になった顔を隠すように背を向けた。


 

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