FC2ブログ移転のお知らせ

50話 – ブラックリーチ(1)

  • 2017.08.16
  • 更新日:2018.10.08
  • RP日記

 

次の朝、引き続き馬を宿屋に預け、吹雪く前に出発した。
千里眼の魔法を使ってアルフタンドを目指す。
雪の中を歩き続ける事数時間、ようやくそれらしき場所に辿り着いた。


遺跡の周辺にはテントや焚き火のあとが点在する。
「この遺跡を調査していたのでしょうか…」
「人影が無いところを見ると、引き上げた後か遺跡内部に入ったのかもな。鉢合わせて山賊と間違われないように気をつけよう」
そう言って軽く笑うロードに頷いた。

道筋を辿り、橋を渡った先に内部への入り口を見つけた。


「いよいよここから先がアルフタンドですね…。用心して入りましょう」

中に入ってすぐ、地面におびただしい血痕が広がっている。血腥さに顔をしかめた。


「これは…調査隊が襲われたのか、それとも…」
注意深くあたりを見回しながら歩いていると、どこからか誰かの話し声が響いてきた。
「…嘘だ! スクゥーマはもっとあるはずだ…。黙れ黙れ! 嘘をつくな、ジェイ・ザール!」
その声を聞きながらルーシスと目を合わせる。
「仲間割れかしら…」
「スクゥーマと聞こえたが…。薬物中毒者がいると厄介だな」
少し経つと声は聞こえなくなった。気を改めて奥へ進む。


少し広い部屋に入る。
調査員が研究していたのだろう、机の上にはドワーフの機械やドワーフに関する書物が置かれていた。
調査員が残した日誌を読むと、どうやら蜘蛛の形をしたドワーフの機械生物に襲われたらしい。
「まだ動く物が残っているのね…」
日誌をルーシスに渡す。
「…ここへ来るまでの間にもいくつか残骸らしきものがあったな。サイズ自体は大した事ないが、どこから飛び出してくるか分からない。これを読んだ感じだと、他にも人型のオートマトンがいるようだ。用心しよう」
ルーシスがそう言うと、机に置かれた本を手にとって読んでいたロードが床に目を落として呟いた。
「この血痕を見ると、まだそれほど時間は経ってない。その日誌の持ち主が襲われたのだろうな…」

先へ進む途中、突然ガシャンと物音が聞こえた。
「噂をすれば何とやら、だな。ロード、そっちだ!」
クモ型のオートマトン、ドワーフ・スパイダーは前方を歩いていたロードに狙いを定めると、音を立てて走り寄る。


ロードは振り向きざまに剣を抜くと、一撃を喰らわせた。
「動きは思ったより素早くないな、それならっ」
もう一度剣を振り下ろすと、スパイダーはあっけなく破壊され動きを止めた。
「元々は戦闘用のオートマトンではなかったのだろう。侵入者を撃退するように行動が組み込まれていたようだな」
周囲を見回しながらルーシスが言う。
「もうドワーフは滅びてしまったのに、ずっとこの遺跡を守っていたのかしら。なんだか哀しいわね…」
動くことのないオートマトンを見つめていると、ルーシスが「行くぞ」と背中を叩いた。


前方に血痕、その先にいるカジートがこちらに気付き振り返る。

「誰だ? また毛無し族が食べものを探しにきたのか? だが、こんな奴らと一緒に閉じ込められた覚えはない…」


すぐ傍にはもう一人、カジートが血まみれになって横たわっていた。
遺跡に入ったときに聞こえてきた話し声。それに、調査員の日誌にカジートの兄弟のことが書かれていたことを思い出す。
転がる空き瓶を見て、このカジートがスクゥーマの中毒者で、口論の末に兄弟を殺したのだと察した。
「あなた…自分が何をしたのか分かっているの…!?」
悲痛な声でカジートに歩み寄ると、彼はこちらへ近づきながら叫ぶ。
「黙れ! 黙れ黙れ!」
腰に下げていた斧を持ち、突然それを投げつけた。
「メル!」
ルーシスが咄嗟に前に出て盾で斧をはじくと、ロードがカジートを剣で斬り付けた。

「…大丈夫か、メルヴィナ」
驚きのあまりその場にへたり込んでいた私に、ロードが手を差し伸べる。
「す、すみません。まさか、斧を投げてくるなんて思わなくて…。びっくりした…」
立ち上がったあとも、膝の震えが止まらない。私の様子を見ていたルーシスが呆れたように声をかけた。
「気をつけろ、今のは本当に危なかったぞ。このカジートがスクゥーマ中毒者だと勘付いていたのだろう? おそらく禁断症状が出ていた。そういう奴は何をするか分からんぞ。スクゥーマ欲しさに兄弟を殺すほど、な」
「そう…ね。私の不用意な行動であなた達に迷惑をかけるわけにはいかない。ごめんなさい、もっと慎重になります」
頭を下げると二人は真剣な表情で頷いた。


見たこともないドワーフの構造物や装置が目に付く。
どんな罠や仕掛けがあるか分からない。細部にも目を配りながらゆっくりと前へ進む。

探索の途中、ボイラーから飛び出した球体が人型になった。


「これか、人型オートマトンは!」
ロードが庇うように前へ出る。
「ロード、気をつけろ。左手に飛び道具を装備しているぞ!」
ルーシスが後方から雷撃魔法を放ちながら言った。
「要は射撃の隙を与えなければいいってことだな!」
ロードはそう答えると、両手剣を叩きつけるようにオートマトンを攻撃した。
体制を崩した敵にファイアブレスを浴びせる。
動きが鈍くなったところへロードが両手剣で打ち砕いた。

「人型オートマトン、確か『スフィア』と本に書いてあった。全員で集中攻撃すればそれほど脅威ではなさそうだが…飛び道具は気になるな」
両手剣を収めながらロードが言う。
「油断は出来ない。今回は目の前で球体から人型に変わったからすぐに対処できたようなものだ。これが複数、更に遠距離から矢を発射してきたら厄介だぞ。この腕に装備している弓のような物は…人の使うものと違って連射可能かもしれない」
ルーシスがスフィアの残骸を調べながら話す。
「しかも正確に狙ってくる…ってことね」
想像して身震いした。

しばらく歩き続けると、大きな空洞に出た。


螺旋階段のように通路が下に向かっていた。
「随分と深そうね…」
底を覗いて息を呑む。
足を滑らせないように下りて行くと、ドワーフ・スパイダーが向かってきた。
「やはりここにもいるようだな」
ロードが前に出ると、構えた両手剣で敵をなぎ払う。敵は弾き飛ばされ通路から落下していった。
「この通路の狭さだと後方から思うように魔法を撃てないな。一人が前面に出るしかない。頼むぞロード」
「ああ。任せてくれ」
「メルはシャウト禁止だぞ。吹き飛ばされたら敵わん」
「もちろん、分かってるわ」

そのまま下っていくと、通路が途切れた。


「分かれ道はなかった。ということは、これは飛び降りなければならないようね…」
下を覗いて高さを確認する。飛び降りるには躊躇する高さだ。
「まあ、このくらいなら行けるか」
ルーシスはそう言うと軽く飛び降りた。
「ルーシス!?」
吃驚して、落ちていく姿を目で追う。彼は苦もなく軽く音を立てて着地した。
「敵はいない。大丈夫だぞ」
「そういう問題じゃ…」
こちらを見上げて飛べと促すルーシス。隣に立つロードが呟く。
「そういうことか…。メルヴィナ、君はここで待っていてくれ」
そう言って彼も飛び降りた。ルーシスと違って着地音が響く。
「ぐ…っ」
「ロード、大丈夫ですか!?」
少しの間蹲っていたが、ゆっくりと立ち上がり私を見た。
「…なんとか。次は君だ。受け止めるから真っ直ぐ飛び降りてくれ」
ロードは両手を広げてじっと見る。
「む、無理です…。あなたまで怪我をしてしまう」
恐怖心は勿論あったが、何よりも彼らを巻き込んで怪我をさせたくない。
何か無事に飛び降りる方法は…。
考え込んでいる私を、下から二人が見つめる。
(…あった!)

「Feim!」
そのシャウトを使うと、私の体は霊体化した。
着地点を見極め、勢いをつけずゆっくりと通路の端から足を前に出した。
「考えたな、メル。そうか、そういう使い道もあるのだな」
音も立てずにふわりと着地した私を見てルーシスが笑う。その横でロードが首をかしげる。
「メルヴィナはどこに行ったんだ?」
「…ああ。ロードには見えないのだったな」
やがて私の身体が実体を持つと、上を見上げていたロードが振り向き驚いた。
「えっ、どうやって降りてきたんだ?」
「霊体化のシャウトを使いました。便利なシャウトを覚えていて良かったです」
「へえ、そうなのか…」
少しばかり不服そうな面持ちで私を見る。


「もう少し頼ってくれてもいいんだぞ」
「あ…いえ、あなたを信用していなかったわけでは…。ただ、上手に飛べるか不安もありましたし、怪我をさせたくなかったので…ごめんなさい」
「責めてるわけじゃないんだ。俺のほうこそごめん」
ロードはそう言って頭を掻いた。
「まあまあ。全員無事なんだ。先を進むぞ。…ロード、お前面倒臭い性格だな」
「悪かったな」
ふてくされたような顔で見返すロードを、ルーシスは笑いながらあしらった。


奥へ進むほど敵の数も増える。
オートマトンに加え、ファルメルという盲目の生き物が存在した。
彼らはドワーフの機械生物と敵対しながら、私達にも凶暴に襲い掛かってきた。

「盲目とは思えないな。的確に矢を射掛けてきたぞ」
あらかたのファルメルを倒し終わってロードが言う。
「この太陽の届かない深部で活動しているのだ。おそらく物体のかすかな物音を敏感に察知するのだろう。こちらが完璧に音を消して進まない限り戦闘は免れないな」
「ルーシス。あんた、気配を消すの得意なんじゃないか?」
「まあな。私一人ならファルメルの間をすり抜けていくことも可能だが、どうした?」
「ここからはルーシスが先行して敵の数と配置を確認してくれると安全に進めると思ってさ」
「なるほど。猪突猛進型のお前にしては考えたな、任されよう。お前達はここで待っていろ。すぐに戻る」
ルーシスはそう言い残し、扉を開けると奥へ向かう。既にその気配は分からなくなっていた。

「…心配しないのか?」
扉が閉まると、ロードはちらりと私を見た。
「ええ。ルーシスの隠密行動は優れていますから問題はないでしょう。彼は一人のほうが気楽で動きやすいと思いますし…」
言いかけてハッとする。
「ご、ごめんなさい…。あなたに不満があるわけではなくて…」
「どうして謝るんだよ」
苦笑しながらロードは続けた。
「ルーシスに先行を頼んだのは彼の技術を認めているからだ。無闇に敵とぶつかっていくのも体力を消耗するだけだろう?」
「そうですね。…あの、ロード」
「ん?」
「私は…ルーシスと同じく、あなたのことも信頼していますから。ここまであなたに前衛を任せていたのも、その戦闘力を頼りにしているからです。この先も、よろしくお願いしますね」
決して頼りなさを感じているわけではない。素直な気持ちを伝えた。
彼は目を細めて少し笑ったあと、真剣な表情で頷いた。

しばらく経ってルーシスが戻って来た。
「目に付いたファルメルは仕留めておいた。ゴールは近いぞ。大物がいる」
「大物?」
「柵越しに確認しただけだが…。あれがドワーフ・センチュリオンというオートマトンだろう」
「さっき読んだ本に書いてあったな…。大きさはどのくらいなんだ?」
ロードが尋ねる。
「人間の二、三倍はあるか。動いてはいなかったが……二体立っていた」
「…両方動いたらと思うと、ぞっとするな」
「とにかく、あれを越えなければ来た意味がない。ここが山場だぞ」
ルーシスが私を見た。
「…行きましょう。全力でサポートします」
全員で顔を見合わせ、気を引き締め奥への扉を開けた。


「しかし…本によれば大きいものだと城並みらしいじゃないか。センチュリオンの中では小さいほうなのかもな。幸か不幸か」
歩きながらロードが言う。
「確かに。私達でも各個撃破すれば勝機はあると言えよう。問題は、二体のセンチュリオンが同時に襲い掛かってきた場合だが…」
「…考えたくないわね。その場合は一体を狭い通路へおびき寄せて身動きを取れないようにする、とか…」
「退路を絶たれるのが一番厄介だ、挟み込まれないように二体の動きに気を配れ。最悪どうにもならなければ一旦退くことも考えるべきだな」
「ええ」
各自戦闘時の行動を話し、覚悟を決め柵を上げるための装置を作動させる。
柵が上がると同時に、蒸気を吹き出しながらドワーフ・センチュリオンが動き出した。


 

12
TOPへ