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41話 – 世界のノド(1)

  • 2016.10.07
  • 更新日:2018.10.08
  • RP日記

 


翌朝。痛い頭を抑えながら部屋を出ると、二人が男性と話していた。
「――見たところ質も良い。ロード、この両手剣はお前にちょうど良さそうだぞ」
「…確かに。意外と軽いな。店主、こんな破格値で商売が成り立つのか?」
「持ちきれなくなった荷物を処分したいトレジャーハンターからタダ同然で買い取ってるんだ。ほとんど元手はかかってないのさ、ハハハッ」
「へえ。けど、それにしても安いな。本当にいいのか?」
「いいんだよ。今回は特別だ」

「おはようございます。どうかしたのですか?」


「おはよう、メルヴィナ。気分はどうだ?」
「ええ、すこし頭が痛みますがなんとか…」
「メル、昨夜の事は覚えているか?」
ルーシスに聞かれ、思い出したようにロードを見た。
「あの、ロード。昨夜はすみませんでした。あまり記憶が無いのですが、あなたが私を部屋まで運んでくださったのでしょう?」
「あ、ああ。気にしなくていいよ。けど、これからはあまり無茶して飲むなよ」
どことなく照れくさそうな表情に変わったロードを不思議に思いながら、頭を下げた。
「ええ、ごめんなさい。気をつけます」

「メル、彼はここを拠点にして各地を行商している商人だ。剣を新調しようかと二人で話しているときに声をかけられてな。そうそう、お前が亡霊騒ぎを鎮めてくれたことの礼がしたいのだそうだ」
「お礼なんて、そんな」


「女将が大層喜んでたよ。ようやく落ち着いて宿を続けられると。彼女が元気になってくれるのは、宿の地下を借りてる俺にとっても嬉しいものだ。それで、女将に代わってあんた達に礼をしたくてさ。遠慮なく受け取ってくれ」
店主から宝石が埋め込まれた銀の首飾りを受け取った。
「えっ? こんな高価なものを受け取れません」
「いいんだよ。売って金に換えるなり付呪のベースに使うなり好きにしな」
困惑していると、ルーシスが遠慮なく貰っておけと笑った。
「では…ありがとうございます」


「で、さっきの続きだ。お兄さん達には剣だな」
テーブルの上に二振りの剣が置かれている。
「そっちの美形なお兄さんは片手剣。大きいお兄さんのほうは両手剣で良いんだな? なんなら他の武器も見ていくか? 品質は保証するぞ」
「いや、十分だ。感謝する」
ルーシス達が剣を受け取り鞘に収めると、シャリンと綺麗な音がした。

支度を済ませ、宿屋を出た。
「…大きいお兄さん、か」
馬に跨ったところでロードがボソリと呟いた。
「ハハッ。やはり気にしていたのか、さっきの」
ルーシスが笑う。
「名前を知らないと大抵そう呼ばれるんだよな…」
「『大きいの』はお前の代名詞みたいなものだな。相手は悪気があって呼ぶのではない、気にするな」
「それは分かってる。さすがに色んな人から何度も呼ばれたらいい加減慣れるさ。ただ、俺の特徴は身体の大きさだけなのかと思って」
「うん? 他に特徴は無いのかと言いたいのか。変なことを気にするのだな」
「悪かったな」
そんな二人の会話を聞きながら、彼らの距離が以前より縮まっているような気がして顔をほころばせる。
「特徴ね…。メル、ロードの特徴を教えてやれ」
「へっ? あ、そ、そうね…」
突然ルーシスに話を振られて、素っ頓狂な声を出してしまう。
じっと見つめてくるロードに目を合わせ、一つ思いついた。
「瞳の色…でしょうか。赤くもなく、茶色くもなく…。けれど、陽の当たる場所ではとても綺麗な薄紅色をしていますよ」
「……そうか。自分の目の色なんて見ないから気にしたことがなかったな」
頭をかきながら話すロードを見てルーシスが笑う。
「瞳の色なんて案外気にならないものだ。メルは余程『じっくり』見ていたということだな」
ルーシスのニヤリとした顔を見てその言葉の意味に気付いた私は、徐々に顔が熱くなっていった。


昼過ぎにはファルクリースに到着した。

シドゲイル首長に山賊討伐の報告を済ませ、装備の新調や買出しも終えて宿で遅い昼食をとっていると、外から雨音が聞こえてきた。
「降り出したな。用事が済んでからで良かった。今日はここで休もう」
ルーシスの提案に私とロードも賛成した。
「今日は少し早めに休もうかしら」
「おや、まだ頭痛がするのか?」
「ええ…」
「お前がそれほど酒に弱かったとは。それもそうか、ハイ・フロスガーで酒は飲まなかったものな」
チーズ片手にワインを飲みながらルーシスが言う。
「これからは飲み過ぎないように気をつけるわ…」
「そうだな。簡単に酔いつぶされて、男にいいようにされかねないぞ」
ルーシスはそう言いながら、黙ってパンを食べているロードを見る。
「…ンッ。ゴホ、ゴホッ」
喉に詰まらせたのか、慌ててワインで流し込むロードが可笑しくて思わず笑ってしまった。

「ところでメル。シドゲイル首長からの従士への誘いには返事をしたのか?」
「丁重にお断りしてきたわ。私に従士は不相応だと思うの。成り行きでホワイトランの従士になってしまったけれど」
「ドラゴンボーンの務めだけで精一杯か」
「ええ。それだって私には荷が重いくらいよ」
自嘲するように笑って見せた。

徐々に雨音が激しくなり、雷鳴も聞こえてきた。慌てて宿屋に飛び込んでくる旅人のずぶ濡れになった姿を横目で見る。
「酷くなってきたわね…。雨、明日には止むと思う?」
「どうだろうな…。ファルクリースは雨が多い。下手をすれば三日はここで足止めをくらうかもしれん」
「出来るだけ早くイヴァルステッドに向かいたいのだけど…」
ルーシスとそんなことを話していると、ワインを飲みながらロードが答える。
「今は大雨だけど、明日には晴れるかせいぜい小降りになってるはずだよ。この季節は大抵そんな感じだから分かるんだ。小雨になったら雨具を着けて出発しよう」
「ええ、そうしましょう」

食事を済ませ席を立つと、一人の女性に声を掛けられた。
「ねえ、あなた達。ごめんなさいね、さっきの話が聞こえてしまって。イヴァルステッドに行くなら私も一緒に良いかしら?」

「…君は旅人か?」
ルーシスとロードは遮るように私と彼女の間に立った。


「あらら。随分と警戒心が強いのねぇ。そこの彼女、お姫様か何か? 大丈夫よ、安心して。何かするつもりなら声は掛けないわよ?」
彼女は両手をブラブラとさせ、敵意の無いことを表現した。
「…それもそうだな。すまない。君の立ち居振る舞いがただの旅人とは違うように感じてな…」
「あら、あなた鋭いわね。こう見えても腕に自信があるの、見抜いてもらえるなんて嬉しいわ。ありがとう」
彼女はそう言うとルーシスに向かって屈託のない笑顔を見せた。


「私はクレスティア。クレスって呼んで。それで、お願いなんだけど。私も一緒にイヴァルステッドまで同行させてもらえないかしら。お使いを頼まれたんだけど、ほら、最近ドラゴンが出るって噂でしょ? 一人では心もとなくて」
「君は弓使いか」
背中に背負われた弓矢を見てルーシスが尋ねる。
「ええ。あとはダガーを少しね。見た感じあなた達の中に弓を使う人はいないようだから、役に立てると思うわ」
「確かに、ドラゴン戦に弓使いが欲しいと思っていたところだ。奇遇だな。…メル、どうする?」
ルーシスは決定を私に委ねた。
快活そうなこの女性が悪い人には見えない。
「共に戦ってくださる人は一人でも多いほうが心強いです。よろしくお願いしますね」


「良かった、ありがとう! えっと…あなた名前は?」
「メルヴィナです」
「それじゃあメルちゃんね。こちらこそ、短い間だけどよろしく!」


 

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