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40話 – オールド・フロルダン(2)番外

  • 2016.09.21
  • 更新日:2018.10.08
  • RP日記

 


「…抑えがきかなくなりそうだ…」

「うん? 何を抑えるんだ?」


「ルーシス。いたのか」
「メルのことが少し心配で様子を見に来たのだが…必要なかったようだな」
「ああ、酔ってぐっすり眠ってる」
「お前、あの子が酩酊しているのをいいことにあんなことして…」
「…見てたのか? あんなことってなんだよ、人聞きの悪い。額にキスしただけだぞ」
「あ……なんだ。本当にしたのか」


「…っ。…鎌をかけたな」


「ハハッ、すまん。しかしお前もそうやって顔を赤らめるのだな」
「からかわないでくれ」
「まあまあ。どうだ、久々に二人でゆっくり飲まないか」
「…ああ」


「――それで、あの子の保護者として聞くが…お前は本当のところどうなんだ」
「どうって」
「いい加減自覚しているのだろう? メルに好意以上の感情があることを」
「…そう、だな。まだ、はっきりとは言えないが」
「はあ? お前、この期に及んで…」
「男として彼女を守りたい思いがあるのは確かだ。好きだから彼女の傍にいたいのか、傍にいるから彼女を意識しているだけなのかは、分からないけど…」
「何だその、卵が先か鶏が先か、みたいな…。…まあ、どちらにしても、あの子が好きなのだろう? ならば素直になればいい。伝えてしまえば、気持ちも定まってすっきりするかもしれんぞ?」


「…怖いんだ…」
「うん?」
「踏み込めないのは…失う恐怖を知っているから…。特別な存在になればそれだけ、失ったときの傷も深い。またあの喪失感を味わうくらいならいっそ、今の関係で構わないと思ってしまう」
「以前あの子とどうにかなるつもりは無い、と言ったのはそれが理由か。そういうものかね…。色恋に限らず、人間関係を築く上で失うことを恐れていたら誰とも付き合えないぞ。それに、どう足掻いても人はいつか死ぬ」
「勿論分かってる。分かっては、いるんだ…」
「…まだ、亡くした彼女を思い出すか?」
「ハドバルから聞いたんだな」
「すまん、大体の事情は。彼はお前のことを心配して気にかけていた。良い友人を持ったな」
「ああ。あいつには随分助けられたよ。けれど、ハドバルが心配するような未練が残っているわけではないんだ。……もう、彼女への思いは吹っ切れてる。ただ、あの日味わった感情だけは…今でも時折夢で再生される。忘れられるなら、忘れてしまいたいくらいだ…」

「お前が及び腰になるわけは分かった。しかし、そうだな、例えば…メルが他の男のものになっても同じことを言えるか?」
「それは…そうなったほうが諦めもつく」
「嘘だな。私には分かるぞ。いざそういう状況になったら、お前は自分の気持ちに正直に行動するはずだ。その気は無い、いらないと言っても、誰かに奪われそうになると途端に惜しくなるのが人と言う生き物だからな」


「なんだよ、それ…」
「フフ。似たような男を知っているのだ。…お互いに想い合っていた女性がいた。だが家柄の問題で、男は彼女のためにも身を引いた。その後彼女は別の男との結婚が決まってしまった」
「ふうん…」
「最後の別れのつもりで男は結婚式に出向いた。そこで想いが溢れてしまい…土壇場で愛する女性を相手の男の手から引き離す暴挙に出た」
「ん? ひょっとして…あんたのことなのか」
「遠い昔のことになる。若かった、今のお前よりも」
「その女性は?」
「死んだよ。それからしばらく経って。正確には殺された、相手の男から差し向けられた悪漢にな」
「そう、か…」
「後悔した。身を引いたままであれば彼女は殺されずに済んだのに、と。お前が復讐のために剣を取ったように、私も復讐のために盗賊ギルドに入った。あの男を社会的に抹殺するために…な。その後…紆余曲折を経て現在に至る、というわけだ」
「…それが、あんたが盗賊になった理由か…。色々あったんだろうな…」
「ハドバルからお前の過去を聞いたとき、私とお前は…似ていると思ったのだ。元盗賊の私と同じにするなと怒られるかな? フフッ」
「いや…」


「お互い、愛する女性の死によって自分の道が変わったと思わないか? お前はその手に持つものが楽器から武器に変わってしまい…、私はそれまで存在すら知らなかった盗賊になった」
「そうだな…」
「だが、お前も私もメルに出会い変わる事が出来た。いや、元の自分を取り戻せたと言おうか」
「ああ。メルヴィナには感謝している。長く心の中にあった重苦しさが解消したのも彼女のおかげだから」


「ロード。私がお前と出会って間もない頃、人が身命を賭して誰かを守ろうとする原動力は何か、と話した事を覚えているか?」
「…覚えてる。愛情、だろう?」
「そう。…仕向けたわけでもないのだが、お前は本当にメルのことを好いてくれた。私はあの子の父親代わりで恋人にはなれない。メルもいずれは伴侶を得て私の元を離れるのだろう…お前があの子の相手なら心配はいらないのだがな」
「……」
「私から一つだけ。命を賭けて大切な人を守ろうとする気持ちは大切だと思う。だが、無駄に犠牲となることを私は美徳と思わない。…自分の命も大切にしろよ」
「なんだか矛盾してるぞ」
「一言釘を刺しておかないと、お前は簡単に命を捨てそうだ。戦い方を見ているとな」
「ハハ、そうかもしれない。気をつけるよ」


 

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