FC2ブログ移転のお知らせ

37話 – アルドゥインの壁(3)

  • 2016.07.13
  • 更新日:2018.10.08
  • RP日記

 

明け方。
目が覚めてもうそろそろ起きようかと身体を起こした頃だった。
「きゃああっ!」
上階から女将エイディスの叫び声が聞こえ、急ぎ彼女のもとにいく。
「もう、またなの? お客さん起きちゃったじゃないか」
少年がカウンターに隠れているエイディスに呆れた声で言う。
「女将さん、どうかしたのですか?」
少年に尋ねると、苦笑しながら答えた。
「気にしないで、よくあることなんだ。幽霊がいるんだってさ。別になにか悪さをするわけでもないんだし、あそこまで怖がることないと思わない?」
エイディスがカウンター越しに少しだけ顔を出し、震えた声で答える。
「お客様、起こしてしまってすみません…。亡霊が…まるで自分の家みたいに、私の宿をうろつきまわっているのです。姿は見えません、ですがほら、あの鍋を見てください。勝手に、かき回されている…!」
彼女が指差す鍋を見た。


「……」
…確かに、幽霊が丁寧に鍋のスープをかき混ぜている。
「あの…」
声をかけると、幽霊は私に気づいた。
「ヒャルティ? お前か? 待っていたぞ」
「…ヒャルティ? 誰のことですか?」
「ヒャルティ、約束したな。フロルダンを略奪したとき、俺を義兄弟にしてくれると」
「ちょっと待ってください。人違いで…」
「メル、どうした? そんな亡霊と会話して…」
同じくエイディスの叫び声で目を覚ましたルーシスが階段を上りながら声をかける。
「ルーシス。あなたにも見えるのね、この人…」
「ああ。女将の叫び声の原因はその亡霊か。何のためにここにいるのだ?」
ルーシスがその幽霊に質問する。
「俺は待ったんだ。敵の矢が胸に刺さり、鎚で骨を砕かれても、待っていたんだ」
「うむ…。ここでは女将が怖がるな…あちらの部屋で話さないか」
カウンター越しに震えながら様子を伺うエイディスに配慮して、ルーシスは亡霊を隣の部屋に導いた。


亡霊は椅子に座ると私を見た。
「しかしヒャルティ、俺が待っている間にお前は随分となよなよしい体つきになったのだな。まるで女のようだ。食べていないのか?」
「あの、ですから私は…」
「メル、確かヒャルティはタロスの若い頃の名だったと思う。お前の魂がタロスのものと似ているのだろう。ここは彼の言うとおりタロスを演じておけ。気が晴れて消えるかも知れん」
「え、ええ…。やってみるわ…」
精一杯声を低くして亡霊に問いかけた。
「お、おい。お前は誰だ? どこから来たのだ」
「ヒャルティ、俺を覚えていないのか? 作戦で2度、一緒だったろ。何度も命を救われた」
「覚えておらぬ。お前は…何のために私を待っていたのだ」
「言っただろう。ヒャルティ、剣をよこすんだ。それで約束どおり兄弟になろう」
「剣…? そ、そんな大昔の剣など…持っておらぬわ」
「なんと。ヒャルティ、剣を持たずには戦闘に行けない。探してくれ」
困惑してルーシスを見る。
「どうやらその剣を渡さないと、ここを離れないようだな。仕方あるまい。引き受けろ」
「そんな…。どこにあるのかも分からない剣を…」
「ヒャルティ、何をブツブツ言っている? 剣を持ってきてくれるのか?」
「…わ、分かった。持ってこよう。お前はここで待っておれ!」
「おお…威勢がいいじゃないか、ヒャルティ。よろしく頼む」

亡霊とのやり取り終えると、隣のルーシスが口をぽかんと開けて私を見た。
「お前…。なんだ、その小芝居は…」


「え…変だったかしら…」

「ンフッ!」
妙な声が聞こえて後ろを振り向く。


ロードが慌てて咳払いで笑いをごまかした。
「…う、ん。ごめん。笑うつもりは…なかったんだけど…」
「ああ、確かロードには幽霊が見えなかったな。メルが妙な声色を使って、誰もいない椅子に向かってこれまた妙な独り言を言っているように見えたか。想像したら笑えるな、フフッ」
「だって、ルーシスがタロスのふりをしろって言うから…」
「お、お前の中のタロスのイメージは、あれ…なのか…ブフッ」
ルーシスが堪らず吹き出す。
「ルーシス…わ、笑いすぎだ…」
そう言うロードも必死に笑いをこらえている。
「もう…二人とも…」


「ハハ。君のそんなところを見たの初めてだから、なんだか気が抜けてしまってさ…ごめん」
「……いえ」
これまでに見たことも無いような笑顔を向けられて急に恥ずかしくなり、慌てて火照った顔を下に向けた。

女将エイディスに亡霊の件を片付けることを約束し、朝食を済ませ支度を調えて出発した。


川沿いの街道を進んでいると前方の空にドラゴンが飛んでいる。
「戦いは避けられないわね…」
馬から下りてドラゴンに近寄る。


私達に気付いたドラゴンは叫び声をあげて向かってきた。
空中から炎を吐き出し、頭上を舞う。
「クソッ! 下りてこい!」
ロードが剣を構えて上空のドラゴンに叫ぶ。川と崖に挟まれたこの街道ではなかなか思うように行動できない。
魔法を当てるだけでは長期戦になってしまうだろう。
「チッ。こういうとき弓使いがいればな…!」
ルーシスが舌打ちをした。

やがてドラゴンは別の標的を見つけたのか丘に向かって飛んでいった。
「地上に降りるかもしれない、行きましょう!」
後を追う。

ドラゴンはサーベルキャットに狙いを定め下りてきた。
「ここなら狙える!」
「ロード、翼を狙えよ!」
「分かってる!」
サーベルキャットに攻撃を仕掛けているドラゴンの背後から、二人が両翼に分かれて切り込んだ。
ドラゴンはサーベルキャットを軽く仕留めた後こちらへ向きを変える。
炎を吐こうとしたところへシャウトをぶつけた。
「Fus Ro!」
ドラゴンはよろめき、その隙に二人が激しく斬りかかる。


「こいつ…今までの小ぶりのドラゴンと違ってしぶといな…!」
「だがもう飛べる力は残っていない。翼はもういい、頭を狙うぞ!」
ルーシスがロードに合図を送ると、ロードはドラゴンの前に立ち挑発する。
ドラゴンが頭を低くしたところを見計らってルーシスが頭上に飛び乗った。
ロードは喉元を、ルーシスは額に剣を突き刺した。

ドラゴンは倒れ、いつものようにその魂は私の身体へ流れ込む。


「メル、私達も随分慣れたものだな。ドラゴン殺しも、魂の吸収も…」
「そうね…。この身体も、もう当たり前のようにドラゴンの魂を受け入れている」
私の魂がもとから人のものではないことも理解している。
けれど…このままドラゴンの魂を喰らい続けて、私は今のままでいられるだろうか。
「さあ、行きましょうか。デルフィン達が待ちくたびれているかもしれない」
今考えるのはやめよう。
気分を切り替えて先を急いだ。

カーススパイアーに到着した。
橋を渡った先でデルフィンとエズバーンが待っている。


「お待たせしました。ここからスカイ・ヘヴン聖堂へはどう行くのでしょう?」
「聖堂の入り口はフォースウォーンの野営地を過ぎたところに違いない。洞窟の入り口があるはずだ」
エズバーンが答える。
「行きましょう、気をつけて」
デルフィンが先導する。
「戦闘は避けられません…か」
「見方を変えれば彼らは山賊よりも性質が悪いわ。話せば分かる連中とは思わないことね」


「…」
「メル、フォースウォーンはデルフィンの言うとおり、近づく者に見境なく攻撃してくる戦闘狂集団だ。数も多い。中にはハグレイブンもいる可能性がある。敵対して向かってくるものに情けはかけるな、いいな?」
ルーシスが念を押すように私に言った。
「…分かったわ。皆さん、くれぐれも気をつけてください」


身を隠しながら野営地に近づく。
「…合図をしたら一斉に攻撃開始よ。彼らが身構える前に先制して。弓矢には注意して」
デルフィンが腕を振り合図を出した。
「行くわよ!」

全員が野営地へ駆け出す。
「…敵だ!」
見張りのフォースウォーンが叫ぶ。


「お前達、何しにここへ来た!」
フォースウォーンの一人が武器を構えて迫る。
背後からエズバーンの召喚した炎の精霊が火を放つ。
相手がひるんだところへロードとルーシスが剣を振る。

「敵襲! 侵入者を殺せ!」
テントからフォースウォーンが続々と飛び出す。

「Fus Ro Dah!」
シャウトで迫る敵を吹き飛ばす。


フォースウォーンは数こそ多かったものの、ほとんどがまともな武器防具を装備していなかった。
彼らはただ闇雲に武器を振り回すだけで、戦闘慣れしているロードやルーシス、デルフィンの相手ではなかった。


「ハグレイブンよ! 気をつけて!」
ハグレイブンは氷の魔法を放つ。
エズバーンが直撃を受けた。
「大丈夫ですか!?」
回復魔法をかける。
「なんの、私はノルドだ。このくらい…っ」
敵の魔法を止めるためにシャウトを使った。
「Fus!」
ハグレイブンがのけぞり、そこへデルフィンが二刀流で止めを刺した。


向かってくる敵はいなくなったようだ。
さすがというべきか、エズバーン以外の三名は特に傷を負っていなかった。
「エズバーン、今手当てを…」
「すまない。少し体が鈍ってしまったかな。さあ、聖堂への入り口を探そう」


「ここが…入り口でしょうか」
「おそらく。中にもフォースウォーンが潜んでいるかもしれない。慎重に行こう」
エズバーンに頷いて、洞窟の中へと進んだ。


 

2
TOPへ