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36話 – アルドゥインの壁(2)

  • 2016.07.04
  • 更新日:2018.10.08
  • RP日記

 


今朝から小雨がパラパラと降っている。
ファルクリースは雨の降ることが多い地域だとロードから聞き、いつ止むか分からないので雨具を身に着けてすぐに出発することにした。


山賊の拠点が見えてきたころには雨もやんでいた。
馬から下りて様子を見る。
「あれが首長の話していた山賊の拠点ですね…。二人とも、勝手に討伐依頼を受けてしまってごめんなさい」
「気にするな。この三人なら何とかなるだろう。山賊を放っておいて罪の無い人々が襲われては気分が悪いしな」
ルーシスがそう言うとロードも頷いた。
「こういうのは慣れてるんだ、俺が先行する。久々に暴れるとするか…」
ロードはそう言って鞘から剣を抜くと走っていった。目で追いながらルーシスがため息をつく。
「…はぁ。チームプレイというものを知らんのか、あいつは。メル、行くぞ。お前は後方で回復を頼む」
「ええ、分かったわ」
「弓矢には気をつけろよ」
ルーシスと共にロードの後を追う。

「何だ、お前!? …ぐわあっ!」


ロードは見張り台に立つ山賊を倒した後、異変に気付き向かってくる敵を片っ端から切り伏せている。
「一人でのこのことやって来て…死にたいようだな!」
「やってみろよ…出来るものならな!」

弓矢でロードを狙っている山賊を見つけ、すぐさまシャウトをぶつけた。よろめいたところへルーシスが剣を振りかざす。


そんな調子であらかたの山賊を倒していった。


「残りはこの中ですね…気をつけましょう」
「ロード、今度は一人で突っ走るなよ」
「ん? ああ…」
ロードはルーシスに言われたことを半分理解出来ないといった表情で頷いた。

中には山賊の頭目らしきオークが一人きりのようだ。
「なんだお前たちは!?」
「…シドゲイル首長から山賊討伐の命を受けて来ました」
「…あいつ! 俺たちを裏切ったか、クソッ」
オークは剣を抜き向かってくる。


だが頭目といえど二人を相手にしてなすすべもなく倒れた。

「これで…片付いたな。出よう」
ルーシスに促され外を出ようとしたが、何となく振り返って奥を見る。


「待って。牢屋があるわ。誰か捕らえられているかもしれない…」
近づいて中を見ると人の足が見えた。
急いで鍵を開け中に入ると、男性が倒れている。

「大丈夫ですか!? しっかり…」


反応はなかった。
息もしていない。
回復魔法を施そうとしてルーシスに止められた。
「メル。気の毒だがもう…」
信じられない気持ちで男性の手に触れると、かすかにまだ温もりが残っていた。


「もう少し早く来ていれば…助けられたかもしれない…。ごめんなさい。ごめんなさい…」
男性に目をやると、手には少し古びたアミュレットが握り締められていた。おそらく大切な物だったのだろう。
彼と、どこかにいる彼の家族を思うと胸が痛む。

「せめて、お…お墓だけでも…」
震えながら立ち上がるとルーシスが声をかける。
「メル」
「だって、このままにしておけない…」
「メル!」
ルーシスの大きな声にビクリと震えを止めた。


「罪無き人の遺体を見つける度に墓標を立てるつもりか?」
「けれど…」
「お前は初めて目の当たりにするのだろうが、この世界ではままある光景だ。いちいち感傷に浸っていては身が持たんぞ」
「…放っておけと言うの?」
「冷たいことを言うようだが、これから先このような状況には何度も出くわすだろう。冥福を祈るのは構わない、だがそれ以上は…やめておけ」
「……」
無言のまま男性に祈りを捧げ、外に出た。


日が傾くころ、前に泊まった宿屋が見えてきた。
「暗くなってきたわ、今晩はあの宿に泊まりましょうか…」
「いや、しばらく先へ進めばもう一軒宿屋がある。そちらへ泊まろう」
そう言うルーシスに頷き、さらに馬を走らせた。


宿屋に着き、馬をとめて中へ入る。


「お客様ですね。オールド・フロルダンへようこそ」
「こんばんは。一晩お借りできますか?」
「ええ、もちろん。タイバー・セプティムの部屋を借りにきたのでしょう?」
「タイバー・セプティムの部屋とは?」
「あら、ご存知なかったのですね。第二紀のことです。タイバー・セプティムは自ら軍を率いて、リーチの蛮族からオールド・フロルダンを勝ち取りました。のちにセプティムはタムリエルを統合して帝国を築きますが、知られている最初の戦いと勝利があったのはこの地です。この宿には、偉大なる将軍がオールド・フロルダンの解放者として最初の夜を過ごしたベッドがあります。使われた当時のままですよ」
「それは凄い…。歴史のある宿屋だったのですね、知りませんでした」


「メル、お前はその部屋に泊まってみろ。タイバー・セプティムはドラゴンボーンだった。お前にもなにかご利益があるかも知れんぞ」
「そうね…。では、その部屋をお願いします」
「ありがとうございます。男性お二方はどうなさいますか? タイバー・セプティムの部屋はダブルベッドですが…」
「それでは、私は他の部屋を頼もう。こっちは彼女と一緒の部屋で…」
ルーシスがそう言うと、ロードが慌てた様子で割り込んだ。
「女将さん、もう一部屋追加で」
「え? ええ。では、タイバー・セプティムの部屋と、通常の部屋が二部屋ですね。ありがとうございます」


「まったく…。ルーシス、話を勝手に進めるな」
「ダブルベッドだろう? お前達二人で寝たらよかろう。お前もノルドなんだ、ご加護があるかもしれないぞ?」
「あのなあ…」
呆れ顔のロードにルーシスが笑う。

食事後、タイバー・セプティムの部屋に入った。


「わあ…」
とても第二紀からそのままの状態を保っているとは思えないほど綺麗にしつらえられた部屋に驚く。大切に管理されてきたのだろう。
ベッドに腰掛け、一人でぼんやりとしながら今日のことを思い出す。

山賊に攫われ、死ぬまで労働を強いられるあの男性のような人がこの世界にどれほどいるのだろう。
山賊が存在する限り被害はなくならない。私の知らないところで、きっと今でも…。

「…メルヴィナ。もう眠ったか?」
ドア越しにロードの声が聞こえた。
「起きていますよ。どうぞ」


「ごめん。話したいことがあって…少しいいか?」
「ええ。何でしょう?」
彼は私の隣に腰を下ろした。

「今日のこと、気にしていると思って」
「…わかりますか?」
ロードは頷く。
「あれからずっと浮かない顔してる。ルーシスの言ったこと、まだ腑に落ちないか?」


「いえ…。彼の言うことはもっともだと思います。頭では理解しています…」
「感情では割り切れない…か。そうだろうな」
「助けられたかもしれない命だったと思うと、やりきれなくて…。そのままにして立ち去ることにも…」
「けれど、仕方の無いことだ。一人が全てを救うことなんて出来ない」
ロードの一言に俯いていた顔を上げた。


「君が本当に悲しむのは、身近な人が死んだ時だけにしたほうがいい。そのくらいの心持ちでいないと、君自身が参ってしまうぞ」
「…はい」
「ルーシスの言うように、これからもあんな場面には遭遇するだろう。気を強く持ってくれ」
「…わかりました…。気を遣わせてしまってすみません」
「いや。…大丈夫か?」
心配そうに見つめるロードに小さく笑って頷いた。

「それじゃあ、明日…」
立とうとする彼を慌てて呼び止めた。
「あ、あの…! 私のほうこそ、あなたにお話したいことが…」
「ん?」
ロードが再びベッドに腰掛け私の言葉を待つ中、私はなかなか切り出せずにいた。
「どうした?」
「…こんなところで伝えるべきではないのかもしれません。けれど、先延ばしにしていたら、余計言い出せなくなってしまいそうなので…」
「…?」

「ファルクリースの宿屋で…ロベリアさんと話しました」


その名を聞いてロードの表情が変わった。
「ロベリア…!? …そうか。話したんだな、彼女と…」
無言で頷く。
私は、ロベリアが伝えたかった言葉をゆっくりと丁寧に、確実に彼に伝えた。


「――彼女は、あなたの幸せを願っていました。彼女のためにも…前向きに生きて欲しいと、私も思っています」
ずっと私の目を見て黙って聞いていた彼が、視線を落とした。
「…死んで幽霊になってまで人のことをずっと気にしていたなんて、彼女らしいというか……」
俯いてそう言うロードの唇はかすかに震えていた。
「素敵な人でした…。あなたがずっと大切に思っている理由もわかります…」

「…忘れることは無理だ。彼女と過ごした日々も、俺の人生の一部だから」
目を伏せて呟くその言葉が、何故か胸をちくりと刺す。
「…彼女は全てを忘れてほしいわけではないと思います。大切な記憶は、心に残してください」
「ああ…。けど、未練や恋心が残って彼女を忘れられないわけじゃない。君には…分かって欲しいんだ」
静かに頷くとロードは少しだけ微笑んだ。

「…ありがとう」
「え?」
「今までずっと、彼女は俺を恨んでいると思い込んでしまっていた。彼女がそんな人じゃないことはよく分かってたはずなんだけどな…。ロベリアからの言葉を聞いて、ようやく胸のつかえが取れた気がする」
「よかったのでしょうか、ロベリアさんの大切な言葉を私があなたに伝えてしまって…。出来ることなら、直接彼女から聞きたかったのでは…」
「どうして? 俺では彼女の姿を見ることは出来ない、声も聞けない。君のおかげで彼女の思いを知ることが出来たんだ。むしろ、君のほうが気を遣ってしまったんじゃないか? 伝えづらいことをありがとうな」
首を振る私にロードは目を細めた。


「あのとき墓地で、彼女に伝えたんだ。今の俺には守りたい大切な人がいると。だからもう、彼女が心配するほど後ろ向きではない。昔のように死に急いだりしないさ」
「それならきっと彼女も安心できるでしょうね」
「少し前の自分ならこんな心境になるなんて考えもしなかった」
「ええ、あなたが元の自分を取り戻せたのなら、私も嬉しいです」
そう言ってロードに微笑み返した。

「…巡り合わせというのかな。君と出会えて、本当に良かったと思ってる」
「そ、そんな…大げさですよ…」
大きく首を振る。ひどく恥ずかしくなって熱くなった顔を下に向けた。
「メルヴィナ。俺…」
何かを言いかけた彼を見る。真剣な表情でまっすぐに私を見つめながらも、その先の言葉をためらったように感じた。
「…ロード?」
「ごめん、なんでもない。今晩はゆっくり休めよ。おやすみ…タロスのご加護を」
「おやすみなさい…」

ロードが部屋を出て行った後もそのまま俯く。


彼に、彼女の言葉を伝えることができた安心感と、私の言葉を彼女の言葉として受け入れてくれた彼の優しさに涙がこぼれそうになった。

出会えて良かったと思っているのは私のほう。
彼は私の傍にいてくれる。それはいつまで?
理由は分からないけれど、一緒に過ごす時間が長くなるほど彼との別れが怖いと感じるようになっていた。


 

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