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32話 – 追い詰められたネズミ(2)

  • 2016.04.29
  • 更新日:2018.10.08
  • RP日記

 


ラットウェイ・ウォーレンズは更に薄暗く黴臭い空間だった。こんなところに隠れ住んでいるエズバーンは、確かに変わった人なのかもしれない。
前へ進もうとするとルーシスが腕で遮った。
「…メル、待て。サルモールだ」
はっとして目を凝らすと、黒いマントに身を包んだサルモールらしき者達がウロウロとしている。
「まだエズバーンを見つけてはいないようね…。どうする?」
「行くしかないだろう。戦闘は免れないな」
「…そうね」
「まだこちらに気付いてはいないな…一人は私が背後から隠密で仕留める。お前はここで隠れていろ、合図をしたら来い」
「分かったわ。気をつけて」
ルーシスはサルモールの一人に音もなく背後から近づき、背中から剣を深く突き立てた。声を出すこともなく崩れ落ちるサルモール兵。
ドサリと倒れる音を敏感に感じ取ったのか、もう一人のサルモールがあたりを見回す。
「なんだ? 今の音は。おい、何かあったのか?」
ルーシスは私に手招きで合図を送ると、奥へ走っていった。

「なんだ、貴様は!?」
「Fus Ro Dah!」
急いで彼の元へ駆け寄ると、敵は既に息絶えていた。
「ルーシス、今の…シャウトね」
「前に言っただろう? 揺るぎなき力のシャウトだけは修得したのだ。魔法を撃たれたら敵わないからな、咄嗟の判断だ」
「初めて見たわ。使わないようにしているのかと思ってた」
「普段はな。これが結構精神力を使うのだぞ。お前は軽く連発しているが…な」
「そうだったの…」
ふと足元を見ると、油のようにギラギラと光る液体が床一面に流れている。
「気付いたか? 魔法には気をつけろよ。特に火気厳禁だ」
「ええ、気をつけます」

それから少し奥に進むと、サルモール兵がいた。
「お前達、ブレイズのスパイか!?」
サルモール兵は魔法剣を出し、斬りかかってくる。


その刃をルーシスが剣で受け止め、盾を使って相手を押しのけた。
「Fus!」
ルーシスが半身横にずれたタイミングでシャウトをぶつけ、相手が軽くよろめいたところへ彼は剣を振りかざした。

「いいサポートだったぞ、メル」
「このくらいは、ね。こんな”声”の使い方をして、師に怒られないか不安だけれど」
「まあ、探求と祈りのためにシャウトを修得しているグレイビアード達に比べたら、お前のは戦闘向きだな。だが、それを見越してもお前にシャウトを授けたのだ、気にせず活用すればいい」
「はい…」


「手桶。ナイフ。本。インク壷。石。だめ、だめ、だめ…」
どこかから老女の声がする。エズバーンのほかにも何人か住んでいるのだろうか。


階段を上がると、扉の向こうにいる男性に呼び止められた。
「あっはっは! こっちに来いよ。さあ、こっちだ!」
「…あなたがエズバーン?」
男性は手に持つ包丁にぺろりと舌を這わせた。
「そうだと言ったらこっちへ来てくれるか?なあ?」
「メル、こいつは違う。放っておけ」
ルーシスが扉から遠ざけるように私の腕を引っ張った。
「贈り物があるんだ。輝いてる素敵なもんだぞ。頼むから、もっと近くに来てくれよ…なあ?」
離れてもあの男性は話しかけてくる。
「あははは! だめ! 見つかりっこないわ!」
突然老女の大きな笑い声が聞こえてびくりとする。

「ここは…気が滅入りそうなところね」
奥に進むと、他の部屋とは違い何重にも施錠されていそうな扉があった。


「ここかしら…。誰かいますか?」
扉をノックすると、小窓が開き老人が姿を見せた。


「立ち去れ! 私はとても危険な男だ! 外に出しでもしたら、痛い目にあうぞ!」
「あなたが…エズバーンですね?」
「何なんだ? そんな奴は知らない。私はエズバーンではない。何の話かさっぱり分からん」
「大丈夫です。デルフィンに頼まれて来ました」
「デルフィンが? どうやって…そうか、ついに彼女を見つけたんだな。それで、ここに送られたのか」
「あなたはドラゴンに詳しいと聞きました。ドラゴンを止めるため、デルフィンはあなたの助けが必要と判断しました。私達はあなたを迎えに来たのです、エズバーン」
「ようやく真実が分かったのか? …中に入れ。ここを見つけた経緯と何が望みかを聞かせてくれ」
エズバーンは扉の鍵を一つずつ外し、最後の一つを開錠して扉を開いた。
「さあどうぞ! さあさあ、中へ! くつろいで!」
先ほどの態度とはうって変わって友好的に中に通される。
「こんなところで寛げるか…」
ルーシスが小さな声で呟いた。


「――つまりデルフィンは戦い続けているのか、いまだに。今頃もう望みはないと気付いていると思っていたのだが。伝えようとしたんだ、もう何年も前の話だが…」
「望みはない、とは…アルドゥインのことでしょうか。知っているのですね、あのドラゴンのことを」
「ああ。アルドゥインは復活した、まさに預言どおりに! 死者の魂を貪り食う太古のドラゴンがな! 現世であろうと来世であろうと、誰も奴の欲望からは逃れられない! アルドゥインは全てを貪り食い、そしてこの世界は終焉を迎えるのだ。奴を止めるものなど何もない!」
「文字通り、世界の終わりだと言いたいのですね」
エズバーンは頭を抱えた。
「ああ、そうだ。すべては預言されている。世界の終わりは始まり、アルドゥインは復活した。ドラゴンボーンだけが止められる。だが、ドラゴンボーンは現れない…」
「エズバーン、希望はまだ残されています。私がドラゴンボーンなのですから」
「何だと? お前が…ドラゴンボーンだと? そんな事が本当にあり得るのか?」
「ええ。この場でその証拠をお見せすることは無理ですが…一緒に来てくださるのなら、きっと信じてもらえるでしょう」
エズバーンは目を閉じ、何かを考えている。
「それなら…それなら希望はある! 神々は我々を見捨ててはいなかった! 我々は必ずや…絶対に…」
突然彼は思い立ったように荷物をまとめ始めた。


「今すぐに出発しなくては。デルフィンのところまで連れていってくれ。色々と話し合わねばならない」
少しだけ待ってくれと言って、彼は必要なものを鞄に詰め込む。

「まあ、これで大丈夫だろう…さあ出発しようか…」

来た道を引き返しながら、エズバーンに尋ねてみた。
「ここへ来るときにサルモールと鉢合わせました。彼らはなぜあなたを熱心に捜しているのでしょうか」
「そうか、彼らにも私の所在を突き止められていたのだな。…大戦以降、彼らは基本的にブレイズを追い続けている。でも、特に私の事を指しているのなら…もしかしたら彼らはドラゴンの復活が何を意味しているのか気付き始めているのかもしれない。彼らが世界の終わりを望んでいるとは思えない、奴らの都合のいいように終わらせたいのかもな」

ラットウェイを抜け、外に出た。
サルモールの追っ手を恐れ、一刻も早くリフテンを出たがっているエズバーンのために、日は沈んでいるがすぐに街を出ようと提案した。
その前にロードに会おうと、宿屋ビー・アンド・バルブに立ち寄ろうとしたときだった。

「深褐色の長髪、エメラルド色の瞳の女。お前がベロニカだな」
「?」
カジートの女性が私の目の前で剣を引き抜いた。


「サルモールの件に手を出した代償を払ってもらうわ!」
「!!」
咄嗟のことで魔法を使う余裕もなかった。
「Fus Ro!」
シャウトを使い、カジートを数メートル吹き飛ばす。そこへ魔法をぶつけようと構えると、それよりも早く相手は背後を斬りつけられた。
「ぐわっ…!?」
驚き振り向いた相手に、もう一度剣を振りかざす。

彼は剣を鞘に収めると、私を見た。


「怪我はないな?」
「ロード。ええ、ありがとうございます。宿屋にいると思っていました」
「なんだか居心地が悪くてな…外でぶらぶらしてたんだ。ここがストームクローク領だってこと忘れてたよ。それより、早かったな。彼がエズバーンか?」
ロードはエズバーンを見て軽く頭を下げた。

「これはどういうことだ? お前もサルモールから狙われているのか?」
エズバーンが訊く。
「ええ、まあ…そんなところです」
「メルヴィナ。こいつ、メモを持っていたぞ」
ロードから手渡されたそれを読んだ。

”数日後に標的がリフテンにやって来ると信じるだけの十分な理由がある。慎重な行動が望ましいが、標的の排除が最優先事項だ。公の場に出ることに関して通常の制限は解除される。…―E”


「文末の”E”…名前の頭文字ね」
「エレンウェンだろうな…。これは、本格的にお前を狙ってきたか」
ルーシスが言う。
「まだ偽名が通用しているみたいだけど、私の正体が知られてしまうのも時間の問題ね。…とにかく、この街を出ましょう」
「だがもうこの時間に馬車を出してはくれまい。歩くことになるが大丈夫か?」
「ええ。馬車で移動するよりは目立たなくていいと思うわ。それと…」
ロードを見た。


「ロード。…あなたの考えを聞かせてください」
「…一緒に行くことは変わらない。賊は嫌いだ、それも変わらない。だが…盗賊の中にもルーシスみたいな男がいることを知った。…ごめん、まだ自分の中でどう考えをまとめたらいいのか悩んでいるんだ」
「ありがとうございます。けれど、もし共に行動することが無理だと思ったら、言って下さいね。強制するつもりはありませんから…」
「……ああ」
ロードはルーシスを見た。
「今までどおりとはいかないかも知れないが…よろしく」
「すまないな…感謝する」
「ルーシス。一つだけ、頼む…。今後盗賊ギルドとは関わりを持たないようにしてくれないか。あんた一人の問題じゃない、メルヴィナも無関係ではなくなってしまったんだ。彼女の身に何かあれば、後悔するのはあんただって同じだろう?」
「そうだな…お前の言うとおりだ。ここが引き際か…」
ルーシスはそう呟いて私を見つめた。

「問題はひとまず解決したか? もういいかな?」
エズバーンがそっと出発を促した。


 

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