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30話 – リュート

  • 2016.04.13
  • 更新日:2018.10.08
  • RP日記

 

宿で食事も済ませ、三人でテーブルを囲み話し合っていた。
「明日の昼までには出発するとして…。装備を新調したいな、鍛冶屋に行くか。それと、雑貨屋で薬も買いたい。メルの風邪薬もな」
「忘れていたわ、ありがとう。私も動きやすい服に変えたいから一緒に鍛冶屋に行くわ」
「馬はどうする? メルヴィナも人の馬に乗ってばかりで疲れるだろう? 馬はおいて、ここから馬車でリフテンに行ったほうが都合がいいと思うが…」
ロードが言う。
「それは構わないが、その間馬の世話は誰がする?」
「リバーウッドには俺の友人がいるんだ。そいつに預かってもらうよう頼んでみる」
「そうか、それならば助かる。しかし二頭も引き受けてくれるか?」
「なんとか…。ちょっと相談してくるよ」
そう言ってロードは宿屋を出て行った。

 


「あいつなりに気にしていたのかもな。お前が私の馬に乗ると言い出すから、気に障るような事でもしたのではないかと…な」
「彼が気にすることではないのに…申し訳ないわ。私が馬に乗れないばかりに…」
「まあ、これでお前の心臓も平穏が保たれて良かったじゃないか。私の白馬はどうも二人乗りを嫌がるみたいだから、次はロードの馬に乗ってもらおうと思っていたのだ」
「そ、そうなの…?」
胸を撫で下ろすと、それを見たルーシスが笑った。

しばらくしてロードが戻ってきた。続けてリバーウッド・トレーダーのカミラが宿屋に入ってきた。
ロードはこちらを少し見た後、カミラと会話を続けている。
「うん? 誰だ、あの女性は。彼女がロードの友人か?」

「いいえ。友人はハドバルという男性よ、前に会ったことがあるでしょう? 彼女はカミラといって、雑貨屋の人。以前、盗品の回収を手伝ったことがあるの」
「そうなのか。…お前が言っていたロードの想い人というのは彼女か?」
「違うわ。彼の想い人はもう…いえ、なんでもないわ」
「ふうん?」


「……」
二人の会話が聞き取れないことが何故だかもどかしい。
「気になるか?」
ルーシスが私を見てニヤリとした。
「…っ。いえ、別に…」

「――と言うの。困ったものよね? フフッ」
「ハハハ。それだけ君のことが心配なんだよ」
二人の笑い声が聞こえてきた。
それと同時に、背後でガタっと音がした。


「――カミラ!?」
後ろを向くと、男性が驚いた顔でロードとカミラを見ている。
「…?」
男性はふらりと立ち上がると、彼らに近づいた。
「カミラ…」
「ん?」
「カミラ・バレリウスは俺の…」
「スヴェン、どうしたの?」
振り向いたカミラが驚いている。


スヴェンはロードを見る。
「あ、あんた。カミラとはどういう関係なんだ?」
「え? どういうって…。ただの知り合いだが」
「スヴェン。彼に失礼なことをしないで。私と兄を助けてくれた人なのよ」
「そうか、こいつがカミラの言っていた…。わかったよ、俺は諦めるしかないのか…」
スヴェンはそう言って、テーブルに置いていたリュートを持って宿屋を出ようとした。そこをロードが引き止めた。
「おい、ちょっと待ってくれ。何か勘違いしているだろう? 本当にただの知り合いだ。…そのリュート、君は吟遊詩人なのか」
「そうだ、吟遊詩人で何が悪い。彼女に捧げるバラードも作った…けど、無駄だったな」
「…それなら、今ここで聴かせてやれよ」
「…?」
ロードは強い眼差しでスヴェンを見ている。
「いつか、聴かせたいと思ったときに彼女はいないかもしれない。自分が死ぬかもしれない。それで、心残りがないといえるのか?」
「なんだよ、あんた…」
「俺も元吟遊詩人だ。少しは、気持ちが分かる…」
スヴェンは沈黙の後、カミラを見た。
「カミラ。君に、聴いて欲しい歌があるんだ…」
「そうなの? 是非聴かせて」


スヴェンはカミラのために作ったというバラードを歌った。
甘く切ないような曲とそれに合わせて歌うスヴェンの声は、まっすぐにカミラに向けられていた。
演奏が終わると皆が拍手をする。
スヴェンは照れくさそうにカミラを見た。
「カミラ…。届いたかい? 俺の気持ち…」
「ええ、素敵な曲だったわ。ありがとう、スヴェン」
なんとなく二人の温度差を感じながらも、この場が丸く収まったことにホッとした。

が、そこへルーシスが口を挟んだ。


「ロード。私は久しぶりにお前のリュート演奏を聴きたいぞ」
「え? いや、さすがに今は…」
ためらうロードにスヴェンがリュートを手渡す。
「あんたも元吟遊詩人だと言ったな。リュートが弾けるのかい? これを貸すから俺達にも一曲聴かせてくれよ」
「…それじゃあ、一曲だけ。俺は歌うのは苦手なんだ、弾き語りは出来ないが…」
観念したのか、ロードは手袋を外してスヴェンからリュートを受け取り構えた。

それはこの場所にふさわしい、気分を明るくさせる軽快な曲だった。
まるで二人で弾いているかのような音の重なり。巧みな指使いで爪弾く姿に、全員が注目した。


いつのまにか酔っ払いが曲に合わせて踊っている。離れた場所でデルフィンやオーグナーも曲に耳を傾けていた。


リュートを奏でるロードの穏やかな表情は、初めて彼を見たあのときと変わらなかった。


「…」
今、彼がどんな気持ちで演奏しているのかは分からない。
けれど、楽器に触れている間だけでも辛い思い出を忘れることが出来るのなら…。
彼には音楽が必要なのだと、そう信じたい。

演奏が終わると拍手がしばらく続いた。


スヴェンは驚いた顔でロードを見ている。
「数年前、短い間吟遊詩人大学にいたんだけど、そこで噂を聞いた。あんた、ロードライト…さん?」
「ああ、そうだ」
「…すごいよ! 噂は大袈裟ではなかったんだな! …俺、恥ずかしいよ。こんな凄い人だとは…」
「どんな噂か知らないけど、しばらく音楽の道から離れていたんだ。今は大したことない」
「それで大したことないって嫌味だろ」
スヴェンはロードからリュートを受け取りながら笑った。
「残念だな。俺が大学であんたに出会っていれば、もう少し真面目に取り組んだかもしれないな…」
肩を落としてスヴェンが宿屋を出て行くと、カミラは元気付けると言って後を追っていった。

「ロード、素晴らしい演奏だったぞ。あの男には可哀想なことをしたかな? 腕の差を見せ付けられて」
「どうも。だから遠慮したかったんだけどな…あてつけみたいじゃないか」
「自分のほうが上手いと自負していたわけだ?」
「そりゃあ、まあ…」
「こっちは彼のお陰でお前の演奏を聴けたのだから感謝しているのだがな。なあ、メル?」
「ええ。本当に、素晴らしかったです。なんというか、心が晴れやかになるような…。上手く言えませんが、元気が出ました」


「ありがとう。そう言ってくれるのなら、弾いた甲斐はあったかな」
ロードは静かに微笑んだ。


 

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